林国本
最近、メディアでときどき「食糧安保」という表現を目にすることになったが、実を言うと、この30年間、うかつにも、ほとんどそういうことを真剣に考えたことはなかった。かつてジャーナリストであった人間としては恥ずかしいことだが、どんどん発展している中国ではそんなことはほとんど杞憂に等しいと心の中では思っていた。しかし、地球の人口が70億を突破し、地球上には飢餓線上であえいでいる人たちがいることをテレビの映像で見て、やはりこの問題はおろそかにできないのではないかと思うようにもなっている。
われわれの世代は、建国以後の食糧、綿花の配給制の時代を経験してはいるが、前世紀60年代初期の自然災害の頃以外、みんな同じ生活をしていたせいか、とくに困ったこともなかった。もちろん、今のように外食をしたり、ブランド品の服を着たりすることはできなかったが、別に不満はなかった。改革、開放のご時世になってからは、都市部では生活レベルの向上によって、やれ洋食だ、「日本食」だ、ウイスキーの水割りだという暮らしもできるようになり、こし方を振り返って、ずいぶん質素な生活をしていたのだなあ、と思うようになった。ところが、今の若者たちは子供の頃から楽な生活をし、自分たちの国にかつて配給制があったことも知らない人が多い。今や配給制の頃に使われていたクーポン類はコレクション・マニヤの収集品になってしまっている。
一人当たりの耕地面積の少ない、水資源の不足している中国で、13億もの人間の食の問題を解決したことは並大抵のことではないと思うようになっている。
最近、農業の基盤強化、科学的農法の導入、水利施設への資金投下、農民の収入増、農村における社会保障の漸次向上、医療保障の漸次向上が提起され、次の30年における中国経済全般のさらなる発展に力を入れ始めているが、これは戦略的に見ても正しい選択であると思う。
13億の人口を擁する国が万が一他国に食糧援助を要請するようなことになれば、それこそ外国のマスコミが跳びついてくるだろうし、「中国崩壊論」を騒ぎ立てる評論家も現れてくるだろう。
最近、メディアで黒竜江、吉林、河南などで大規模な機械化農業がくり広げられている映像を何度も目にしたが、とにかく飛行機で農薬を散布し、コンバインで穀物を収穫し、脱穀、袋詰め、トラックへの積み込みを一貫作業ですすめているのを目にして、将来的には中国の農業はこうあるべきだと思っている。
私見ではあるが、中国のシステムでは13億の人口を養っていくことはそれほど難しいことではないが、農村における労働力構造の変化を先取りするならば、これまでの政策は公約どおり実行するとともに、新しい農業従事者を育て上げることも視野に入れておくことが必要となろう。13億の人口の食の問題ばかりでなく、責任ある大国として困難を抱えた地域の人々を援助するという役割も果たすようになってもらいたい。
「中国網日本語版(チャイナネット)」 2012年3月17日