日本経済に対する外部の見方が偏っていると言うのなら、日本国内が感じている経済衰退の切実な痛みは、どのように説明がつくのだろう。デフレを経済低迷の元凶ととらえる彼らの習慣的な思考は、極めて単純な論理に支えられている。デフレにより販売価格が長期的に抑えつけられたことで企業の収益が限られ、それによって給与が長期的に低迷した結果、消費者の収入水準が下がる。企業はさらに販売価格を下げざるをえなくなり、同時にコスト削減も迫られる。そして更なるデフレに繋がる――という悪循環である。この解釈はその単純さから受け入れられやすく、一般人にとって、自身の収入が下がったという体験からの実感とも重なる。これこそが、一般世論が世間の経済評論家を巻き込んでデフレの脅威を声高に叫ぶことになった理由である。
しかし、同じ三つの時期の日本の就業者年平均収入は199兆円、266兆円、261兆円だった。失われた十年という言い方が盛んにされたが、これは多分に誇張されている。就業者の収入水準が下がり始めたのは2000年代に入ってからであり、この時期に7兆円下がった。ただし、この減少は日本の労働人口が減り始めた時期とも重なっている。この年平均収入は2000年からの10年で8兆円下落しており、この数字は前出の7兆円とかなり近い。この現象は一般に、就業者の収入水準がデフレ経済の象徴的な指標となっていると理解されるものであり、失業率の上昇とも結びつけて考えられる。しかし、日本の失業率は他の先進国と比べてかなり低く、依然5%以下に保たれていることも事実である。日本の失業率上昇は長期的な傾向であり、当初2%以下だったものが、バブル経済期に3%以上、2000年代には4~5%に上昇している。したがって、経済不振の元凶はデフレにあると単純に考え、日本銀行の緩和策が不足だったとするのは、根拠のない論になる。