周牧之:太陽電池狂騒曲

周牧之:太陽電池狂騒曲。

タグ: 太陽電池 電子産業

発信時間: 2012-05-21 10:48:51 | チャイナネット | 編集者にメールを送る

東京経済大学教授 周牧之

 

つい最近まで、太陽電池は、電子産業の将来のドル箱と期待されていた。シャープ、京セラ、サンヨーといった企業が、30年以上を費やして開発に取り組んできた。日本勢はかつて世界の太陽パネル生産シェアの過半を占めていた。

つい最近まで、太陽光発電はオバマ米大統領のグリーン・ニューディール政策の目玉であった。大統領が率先して太陽電池企業への投資を促しさえした。

つい最近まで、ヨーロッパは助成制度のもとで世界最大規模の太陽光発電市場を生みだした。ドイツ企業のQ-Cellsは一躍太陽電池の世界トップメーカーとなった。

しかし、2000年前後から始まった太陽光発電市場の普及と太陽電池の世界競争は、わずか10数年で悲喜こもごもの輪廻を経験した。まず日本企業が敗走した。2004年には太陽電池の世界シェアの半分を占めていたのが、わずか2年でシェアを25%まで落とし、その後転落し続けた。

グリーン・ニューディール政策で潤沢な資金を集めたアメリカの太陽電池メーカーは2011年に突然、破綻のドミノに陥った。オバマ大統領自ら5億ドル以上の連邦融資を決めたカリフォルニア州のSolyndra LLCも例外ではなかった。「モデル企業」の経営破たんは、反対派に大統領への攻撃材料を与えた。

今年4月3日のQ-Cells破たんのニュースは、世界を騒然とさせた。昨日のトップランナーがいきなり退場したのである。太陽光発電の世界は予測がつかない。

太陽光発電市場の急拡大は、政府の政策支援がもたらした。再生エネルギーを振興するため、アメリカ、ドイツ、スペイン、イタリアを始めとする欧米各国が次々に太陽光発電への助成制度や買い取り制度を打ち出した。これで空前の大市場が作られ、太陽光発電や太陽電池メーカーに世界的な投資フィーバーが巻き起こった。しかし急速すぎる太陽光発電の導入量が、各国政府の補助の予想をはるかに超えるものだったところに問題があった。そこへ金融危機や債務危機が、欧米の財政をさらに圧迫した。重荷に耐えられなくなった各国政府は、太陽光発電の買い取りや補助金の拠出をやむを得ず急縮小した。これによって太陽光発電市場の拡大の勢いがそがれることになった。政策によってバブルが膨らむのも速かったが、弾けるのも速かった。

太陽エネルギー世界に波乱をもたらしたもう一つの要因は、中国勢力の出現だ。2001年にサンテックパワーが無錫で創業し、2002年には中国で最大規模の太陽電池生産ラインを立ち上げ、2005年にニューヨーク証券取引所上場を果たした。成功のモデル効果は絶大であった。太陽エネルギーの将来性に中国企業は群がった。その結果、2012年の中国の太陽電池の生産能力は、世界シェアの5割にあたる40GWとなると予測される。一方、2012年の世界の太陽光発電導入量は中国の生産能力にほぼ相当する規模に過ぎない。ちなみに、中国市場は3GWに留まり、これは中国の太陽電池生産能力の7.5%である。すさまじいほどの過剰な生産能力と在庫が、太陽電池の価格を大暴落させた。否応なしに欧米企業が次々と破たんに追い込まれた。「敵を3千殺すには、味方も8百失う」。価格戦争によって、生産量世界トップスリー全てを総なめにした中国の太陽電池企業上位三社も、ことごとく巨額の赤字を出している。業界の雄ですらこの有様なのだから、他の企業の惨状は言うまでもない。

中国企業がわずか10年で世界の太陽電池業界を席巻することができた理由として、まず情報革命で技術伝達の速度が加速したことが挙げられる。特に太陽光パネル生産は装置産業であり、生産技術やノウハウを内包するハイテク設備の導入により、企業は迅速に生産能力を得られる。太陽電池の生産は半導体に似ており、新興企業は世界中の半導体業界から人材を獲得することで、素早く技術チームを作り上げる。世界の工場たる中国ならば、優秀な生産管理の人材も豊富だ。加えて、新エネルギー政策のバブルのもとで、上場やベンチャーキャピタルを通じて太陽電池メーカーは比較的容易に国内外から巨額の資金を集められる。もちろん、中国独特の地方政府支援も重要である。サンテックパワーを例にとると、設立から度重なる危機の回避にいたるまで地元無錫市政府の支援が欠かせなかった。

さらに、中国、特に長江デルタ地域はすでに太陽電池産業の巨大な産業集積が形成されており、きわめて効率的な分業体制が素早く実現できた。以上のような前提があって、中国の太陽電池産業は爆発的に成長できたのである。

しかし、中国での太陽電池生産における過剰な投資は巨大な浪費をも生み出した。産業政策の不在、地方政府間の競争、投資バブル、企業の同質経営などが相まって太陽電池産業をまるでオセロゲームのように高利益産業から薄利、さらには赤字産業に陥らせた。まして欧米企業が先の見えないときに倒産などのかたちで撤退するのに対して、中国企業はさまざまな理由で我慢比べのゲームを続けている。

太陽電池産業の道のりから明らかなように、中国は産業が大発展する諸条件は整っているものの、理性や冷静さに欠けていると言える。

 

掲載誌:中国新華社『環球』雑誌2012年第10号

 

 

 

「中国網日本語版(チャイナネット)」2012年5月21日

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