次に、人民元よりむしろ、アメリカの雇用者の流失は産業構造の変化と関係している。2001年以降、アメリカは500万人の製造業雇用者を失った。一方でサービス産業の雇用者は400万人増加している。同時期、中国でも460万人の製造業雇用者を失っている。製造業の雇用者は減少しているのが実態で、一方でサービス業の雇用者の増加現象はアメリカに限らず、ブラジルや中国、日本、韓国でも見られる。
中国が世界市場に参加する以前、アメリカは製造業でトップを走っていた。1960年代、アメリカ人労働者の3分の1が製造業に従事していた。中国が改革開放に突入する1年前である1977年には、その比率は5分の1に落ち、中国がWTOに加盟した2001年には8分の1までに減少した。現在、アメリカ人労働者で製造業に従事するのは10分の1足らずである。人民元の切り上げでアメリカ製造業の雇用減少に歯止めがかけられるとは思われない。2004年から2008年までに、人民元の価値は18%上昇したが、アメリカの製造業は雇用を30万人以上減らしている。この事実から見ると、人民元がさらに引き上げられたからといって、バービー人形やiPhoneを製造する職位がアメリカに戻るとは信じにくいのである。