2016年の世界経済は低迷する見通しで、全局面をけん引する大きな見どころが不足しそうだ。この時期に責任逃れするのは一部の政治家と輿論の常套手段になる。中国の経済成長が減速の圧力を受け、昨年夏より株価が暴落していることから、世界経済の低迷は「中国のせい」という説に多くの「証拠」が備わっている。
客観的に見て、中国経済は高度にグローバル化された世界経済に深く浸透しており、双方向の影響が生じている。しかし中国経済の世界への寄与が主流となっているなか、中国には「世界の足を引っ張る」意図も、能力も、それによって手にできる利益もない。
米国の2007年のサブプライム危機は、世界経済の低迷を引き起こした張本人だ。これは世界の大多数のエコノミストと政治家の共通認識だろう。米国はドルの優位性を利用し量的緩和策を講じ、自国の問題の責任を転嫁することで、自国の損失を多くの経済体の損失より少なくしようとした。これはほぼ定説となっている。中国の責任を論じるためには、これを認めることが前提条件となる。
中国の成長率の低下は、世界経済が著しく衰退する中で生じた。中国は現状に対する責任を完全に逃れることはできないが、中国は「中心的問題を引き起こしている中心国」ではない。その理由はこうだ。
(1)中国の経済政策には、外国に責任を転化する明らかな意図がない。米国が量的緩和策を実施し、円安・ユーロ安が続いた数年間に渡り、人民元レートは2015年8月まで上昇を続けた。
(2)中国は世界2位の経済体だが、世界に対して直接用いることのできる政策ツールは非常に限定的だ。中国は米国のように、国際通貨としての性質を持つ米ドルを私物化し、米国にとって最も有利な流動性を維持することはない。
(3)中国は他国を損させ、自国だけ得するようなことはできない。中国経済は海外との関連性が高く、他国と争えば相打ちは免れない。そのため中国は他国に「経済制裁」を実施することが少ない。