日中経済協会
調査部長 高見澤学
2013年に習近平国家主席によって「一帯一路」構想が提唱されてから既に3年半が過ぎ、関係諸国との協力が進展している。こうした中、今年5月14、15日に北京で「一帯一路国際協力ハイレベルフォーラム」が開催される。中国側の報道によれば、ロシアのプーチン大統領やフィリピンのドゥテルテ大統領など20名を超える国家元首・首脳のほか、各国閣僚・国際機関代表・民間代表等合わせて1,200以上が参加するという。日本に対しても政府関係者や経済界にも招待状が届いている。
「一帯一路」構想を経済の面からみると、中国にとってその主要目的は、国内の地域経済振興と対外経済関係の強化を同時に図ることにある。第13次五カ年計画にもみられるように、地域経済振興では「京津冀(北京、天津、河北)一体化」や「長江経済帯」とともに重要な地域政策の一つと位置付ける。また、対外経済関係強化では、一帯一路域内における二国間・多国間のインフラ整備や産業協力の強化とそのための複数の資金調達ルートの確立を図りつつ、多角的かつ質の高い協力システムを構築するという壮大な目標を掲げている。
現在のところ、具体的な数値目標や詳細な戦略が示されているわけではない。実質的には関連国との二国間協力を中心に、取り組みやすい分野から先行して協力を実施していくトライ&エラー(trial and error)の方式で進められているのが実情だ。また、本構想と密接に関連するアジアインフラ投資銀行(AIIB)は、これまでのところは世界銀行やアジア開発銀行(ADB)等既存の国際金融機関との協調融資が中心となっている。
今回、大規模かつハイレベルな一帯一路に係るフォーラムを開催することになった背景には、昨年来、反グローバリズムや保護主義の台頭により、今後の国際情勢に対する不透明さが増してきている現実がある。こうした流れが、中国が進めている一帯一路構想に何かしらの影響を及ぼし、その推進に少なからず支障が生じるのではないかとの懸念は理解できなくもない。しかし、米国トランプ政権やブレグジットを進める英国の経済政策が、少なくとも二国間交渉によるFTAの実現を目指すのであれば、自由貿易を真っ向から否定するものとは言えないだろう。先般、米国フロリダ州で行われた米中首脳会談で、習主席がトランプ大統領に対し、中国が進める一帯一路構想への米国の参加を歓迎するとの意思を伝えたことは、トランプ政権の対外経済政策に一帯一路戦略と相容れる部分も少なからずあることを、中国側が認識したからに違いない。
最近の中国の一帯一路構想に対する取り組みをみていると、中国の改革開放政策におけるその位置付けがますます重要視されていると感じる。とはいえ、従来のグローバル化とは異なる点がある。それは、従来のそれが、大航海時代の国際交易体制が前提となっているのに対し、一帯一路は中国古来のグローバル化の象徴である「シルクロード」を強調しているように感じられる点だ。東西双方のシルクロードの起点が諸説あり、その範囲がいかようにも拡大解釈できるように、現代版シルクロードもまたその範囲を全世界に広げられる余地を残している。
アジア諸国をはじめとする発展途上国を中心に、先進国を巻き込む形を想定したこの一帯一路構想は、従来のグローバル化が生み出した問題を解決する可能性をも期待させるものであろう。社会・経済の大きな転換期を迎える中で、地域や産業の融合が目指されており、この一帯一路戦略もその試験的な試みの一つであることは間違いない。
先日、偶然にも横浜市にある「シルクロード博物館」を訪れた。中国で紀元前3世紀頃に生まれたとされる蚕から糸を製法する技術は、中国では昔から門外不出とされていたようで、中国以外で養蚕が始まったのは6世紀ごろと言われている。それまでは、中国から陸路・海路でインドやペルシア方面に輸出されており、紀元前1000年ころの古代エジプトの遺跡から中国シルクの断片が発見されているという。こうしたシルクロードを通じた古代の交易が世界各地のどのような繁栄をもたらしたのか、今となっては当時の様子を明確に知る由もない。ただ、それぞれの優位性を活かしながら、より良き社会作りを目指したことは間違いない。
(本稿は筆者個人の意見であり、所属機関や中国網を代表するものではありません。)