米国の著名な経済学者、ミルトン・フリードマンは1969年に「ヘリコプターマネー」という概念を打ち出した。フリードマンは次のようなシーンを想定した。あるヘリコプターがコミュニティ上空を通過する際に米ドル紙幣をばら撒く。これらのお金を拾った住民はラッキーと思い消費し、実質的な産出を増やし経済成長を促進するというのだ。ヘリコプターマネーはこうして名付けられた。
過去数日に渡り米国の株価が暴落し、10日間で4回もサーキットブレーカーが発動した。わずか1カ月で米国企業の時価総額が100兆ドル弱も蒸発し、トランプ氏の大統領就任以来の上昇幅が一気に失われた。米国の景気低迷のリスクが急拡大し、米政府は1兆ドル規模の景気刺激策の緊急検討を強いられた。その選択肢の一つが、銀行及び金融市場を迂回し人々に現金を直接支給するこのヘリコプターマネーだ。
この措置は現在の米国経済の弱点を反映している。企業が不況で、人々が失業し、生存を維持する経済の基礎を失いつつある人が増えている。2008年の金融危機と異なり、今回の危機で最も深刻な影響を受けるのは労働者と弱い立場の人々だ。この集団は資金調達の手段がなく、衣食住に直接関わる生存問題に直面する。
米国のムニューシン財務長官は17日にホワイトハウスで開かれた記者会見で、政府が2週間内に米国人に現金を支給すると発表した。米メディアが18日に発表した財務省の覚書によると、米政府は4月6日より2回に分けて、米国の各家庭に総額5000億ドルの現金を支給する予定だ。各家庭の具体的な支給額は、所得及び子供の人数によって異なるが、具体的な内容については未定。米メディアによると、多数の米国人が1000ドル以上の現金を支給される。
国民に現金を直接支給する方法は理論上、その他の政策よりも直接的だ。各家庭が政府から支給された現金を使用すれば、米国経済に5000億ドル分の民間購買力を注入するようなものだ。これは米国のGDPの約2%を占める規模だ。同時に通貨の供給拡大により物価上昇を促進し、物価上昇を差し引いた実質金利が下がり、企業の投資及びその他の支出の拡大を刺激する。
米連邦準備制度理事会(FRB)前議長のベン・バーナンキ氏は、ヘリコプターマネーの忠実な提唱者だ。バーナンキ氏はそのメカニズムについて詳細に説明し、中央銀行の景気刺激及びデフレ回避の最終兵器との判断を示した。
しかしヘリコプターマネーは現在、現実的に本当に奏功するのだろうか。
新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、米公衆衛生当局者は市民に外出を極力回避するよう求めている。全国の大半のバー、飲食店、映画館、スポーツ施設などの公共娯楽施設がすべて閉鎖された。スーパー、薬局、ネット通販など、人々が消費できる場は限られている。大きな借金をしている人は支出拡大ではなく返済に回す可能性の方が高い。
ハーバード大学のマンキュー教授(経済学)は、国民に現金を直接支給する方法はケインズ的な景気刺激ではなく、社会保険と見なされるべきとの観点を示した。
米会計事務所グラントソントン・インターナショナルのチーフエコノミストも、国民への現金支給により多くの個人及び企業の感染症による破産を回避し、今年第2・3四半期に米国経済に及ぶ感染症の影響を和らげられるが、感染症による米国の景気低迷を阻止できないと判断した。
さらに別の経済学者は、ヘリコプターマネーが政府債務及び悪性インフレのリスクを生む可能性を懸念している。超低金利及び量的緩和策による市場救済が空振りに終わると、FRBは17日に2008年の金融危機の際の「奥の手」を持ち出した。米国の家庭及び企業を対象に無利子・無担保の融資を提供すると発表した。金融政策の「バズーカ」連発は危機が迫る緊張感を生むが、失業し生計を立てられない人にとってはこれでもまだ直接的ではなく不十分だ。
「中国網日本語版(チャイナネット)」2020年3月20日