文=丸紅(中国)有限公司 経済調査総監 鈴木貴元
今年の政府活動報告は総じて手堅い内容だった。今年の成長目標を+5%前後としたのは、地方政府の目標が加重平均で+5.6%、巷間の見通しが+5%台後半以上と強気になりながらも、そこには昨年の落ち込みの反動という要因があることと、来年の見通しが再度+4%台になると見られる中、安定した伸びが確保できれば良いという判断に傾いたからであろう。実際、今回の報告では「穏」、「穏健」という言葉が増えた。
経済政策を眺めると、財政・金融政策を景気拡張型としつつも、ばらまきを排しているのに加え、科学技術、民間投資、外資誘致の強化と、供給サイドの体質改善が強調されており、「改革」という言葉は減りながらも、経済構造の改善が強く志向されていることが見て取れた。科学技術において政府のリードによる核心技術の改善、外資政策において外資の重要プロジェクトの着地ということが述べられており、ここには昨今の米国によるデカップリングの動きに対する危機意識が見られる。経済発展の最も基礎となるイノベーションの継続を確保するとともに、外資企業という対外関係構築の最も基礎となる貿易・投資の確保と、経済を通した相互往来・理解を志向していることは、安定と発展を同時に図る戦略とも言える。
今年は社会主義現代化強国に向けたスタートの年であり、脱コロナからの再出発の年である。下ブレ懸念が各所に残る中で雇用・物価に配慮した堅実な経済成長と、供給安定に配慮した経済体質の改善を図る。改革の大きな部分は昨年までに進展を見ており、今後は弱い部分の補強と既存部分のファインチューニングとなろう。中国ウォッチでは、高質量発展時代の経済政策の新たな見方が求められる。
「人民中国インターネット版」2023年3月7日