東京の地下鉄を体験する前に筆者は十分な心の準備をしていた。鰯の缶詰のように人が車内に押し込まれ、顔が半分電車の扉に押し付けられている光景など、東京の地下鉄の恐ろしいほどの混雑ぶりを捉えた写真を何度か見たことがあったからだ。中国国内でも、バスや地下鉄が込まないわけではない。通勤ラッシュ時ともなると皆顔から首まで紅潮させながら必死に乗車している。やっとの思いで乗り込んだかと思っても、少し気を緩めると気が付けば扉の外に押し出されて次の電車を待たなければいけないこともある。しかし、それでも写真で見る東京の地下鉄のような人ごみにはまだ遭遇したことがない。想像するだけでも幾分緊張して心臓が高鳴る。「中国で百戦錬磨の経験を積んだ私なら大丈夫」、そう言い聞かせながら、好奇心からやはり東京を訪れ、地下鉄乗車を試みた。体験して気づいたのは、筆者の百戦錬磨の力量を発揮するチャンスはどこにもないということだった。
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