浙江省の東部。その海辺のごく普通の漁村――石塘。同省にある艶やかな西湖、あるいは小橋と水の流れで有名な紹興とは比較にならないかも知れないが、建物は非常に特色に富んでいる。石の家が海辺の山の崖に折り重なるように並ぶ。フランスのノートルダム寺院は多くの画家が必ず訪れることで知られるが、石塘村は中国の画家なら知らぬ人はいない。
石塘で最も魅了されるのが、びっしりと立ち並ぶ建物だろう。土地が狭いために開発する余地はほとんどなく、家は山の斜面に沿って建てるしかすべがない。過去、人々は貧しい生活を送ってきた。よその土地の人びとが今、贅沢と思えるほどの二階建ての家に住むようになったのは、百年余り前からだ。いま一つの特色は石造り。石塘には土も窯もないが、山野のあちこちに石が転がっている。黄土色の石は硬く厚く、切削した一つひとつの塊を積み重ねて家をつくってきた。こんな構造なので、漁民は夏に決まって襲われる台風にも枕を高くして眠ることができる。遠くに立って眺めると、石の家はあたかも中世ヨーロッパの強風にも吹き倒れず、落雷にもびくともしない砦を思わせる。街を歩いてみると、石塘の家屋は四世代伝わる住居だということが分かった。一番古いのは二面が石造りで、別の二面は木の板を壁にしている。石壁に大きな変化はないものの、ただ湿気で黒かびの生えた板壁が歳月の流れを物語っていた。第二世代の家屋は四面すべてが石壁だ。でも窓が小さく開かれている。孫の代になると外観は様変わりし、新たな工夫が見られる。伝統的な二階建てから三階、四階へと高くなっていて、あたかも屹立するトーチカのようだ。壁にはレンガが混じり、窓も昔に比べると大きく、流行のアルミ合金製の引き戸を取りつけた家もあった。小さな土地ならではの豪華さと気概だろうか。もちろん、村で最も裕福、最もモダンな家はもうそんな伝統的な石造りではない。遠方からレンガやローリングボードなどを車で何度も運び込んで、数階建ての家屋を築いている。富と進歩を示す象徴的な建物だ。
とはいえ、何階建てかを問わず、高いか低いかにかかわらず、石塘人の生活スタイルは今も変わっていない。草花を植える庭があり、一階で客をもてなし、くつろぎ、食事をつくる。木の板の階段が続く二階から上は寝室で、他人は上がることはできない。昼間の間、家族は一階で過ごす。
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