2週間ほどまえにこちらのブログでエントリー投稿したときには、仮決定の状態でしたが、実際にグーグルの中国大陸からの撤退がきまりましたね。それにともなって、多くの有識者の方が論評をされていますが、中でも目立つのが「自社に悪影響だ」とか「害悪だ」という論調のものです(はっきり言って、僕からすれば「浅い」意見が多すぎる印象です)。
これらは、企業行動から極めて離れた無意味な議論な気がして仕方がありません。企業行動、そもそも合理的な利潤追求のもとに意思決定なされます。ですから、重要なことは、これだけ「明らかに」魅力的な中国市場から撤退したことそのものから生じる「企業業績への悪影響」ではなくて、その悪影響よりも高いベネフィットはなんだったのか?ということなんですね。
いまさら、中国市場の魅力云々を語る必要はないほど、それは企業にとって重要でありますし、そして、中国市場からの撤退は、絶対に一要素として一義的に売上減少を招きます。議論されるべきは、それ以上に「何が撤退を促したメリット」だったのか、です。ぜひ、有識者の方は、問題の所在を間違えずに、そうした議論がなされた骨のある論調がふえてくることを期待します(僕のグーグルという一企業がどういった行動をすべきかという意見自体は、前の僕のブログエントリーを参照ください。)。
さて、少し誤った論評等への批判をした上で、せっかくですから、グーグル撤退に関連した話題をもうひとつしましょう。前回は、グーグル(民間企業)と政府部門をそれぞれどういう行動原理に基づいているかなどを考察しました。今回はこのグーグル中国本土市場からのリアル世界での撤退に絡んで、産業はどうなるか、ということをみたいとおもいます。産業すなわちindustryは、複数の企業によってこうせいされています。「企業」が1つで、「政府部門」が1つ(分権化しているとしても国家体としてはひとつです)のヒエラルキー(階層構造)であるとしたら、この産業という概念は、ひとつのヒエラルキーで構成されていません。水平的かつ複数の企業によって構成されたものです。グーグルが所在した産業は、そうですね、このITやネット業界といった産業は極めて相対的に新しい産業なのでその区分けがむずかしいものなのですが、たとえば、検索サービス事業を産業ととらえるならば、グーグルは中国市場から撤退したと言えるでしょう。そして、その産業の競合が「百度」などだったりするわけです(グーグル撤退発表以降、株価も競合各社が上昇させていますよね)。
しかし、産業の区分けは非常に難しく前回ブログエントリーで書きましたように、バーチャル市場を想定するならば、決して検索サービスでの競合だけが産業を構成するということになりません。つまり、マイクロソフト、百度、Yahooといった検索サービスプロバイダーが産業を構成するのではなく、それよりも計算システム事業を産業ととらえれば、そこにはIBMしかり、シスコシステムズしかりといった企業も産業を構成しているといえるわけです。さらに、通信会社も産業に含まれるとするならば、より複雑化してきますね。
ですから、ここで問題となるのは、グーグルはどこの産業に所在しているのか?というテーマであると言えます。産業の区分けをするのが株式マーケットであったり、国や民間の調査機関であったりしますが、「日進月歩」ならず「分進秒歩」のネット、IT、バーチャル業界でこの産業の区分けがほぼ整備されていないことは言うまでもありません、またグーグル自体も外部環境にあわせ、どんどんと、その事業体を変化させていっている柔軟な組織であります。
このように、マクロ的に産業の区分けが難しく、そしてミクロ的にひとつの企業体の変化が激しい状況において、唯一のリファレンスは、「グーグルの企業行動に過敏に反応した企業は同じ産業といえる可能性が高い」ということのみです(逆に言えば、一見おなじ産業にいそうでいて、反応が薄い企業は、同じ産業にいる可能性が低いということです)。
今回のブログでの産業への影響に対する解説はあまり深みに入りこまないように、このあたりまでにしておきましょう。
はてさて、みなさん、グーグルの属する産業はどこ?具体的な競合はどこの企業だと思われますでしょうか(ふふふ)???
(中川幸司 アジア経営戦略研究所上席コンサルティング研究員)
「中国網日本語版(チャイナネット)」2010年3月29日