前新華社東京支局局長 冮冶
2004年4月のある日、留学生のS君は渋谷で1人の「外人」から1000円で3枚の電話カードを購入した。通常、この種の電話カードは1枚1000円であり、3枚なら3000円だ。S君が購入したのは、疑いようもなく偽造電話カードであった。心中ではそのことは分かっていたが、お金を節約するために、ちょっと得をしようと思っただけだった。なぜならこの種の偽造カードは、本物のカードと同じように使用できるからだ。当時、東京の繁華街では、この種の偽造カードを売る「外人」をしょっちゅう見かけることができた。彼らは道行く人に「電話カードいる?」と聞くのだ。S君は当時、これはまずいことだと深く考えることもなかった。周りの人たちがこの種のカードを使っていたのを見たことがあったからかもしれない。
成人式を迎えた日本の女性たち
だが、その後に発生した事件は、S君を一生後悔させることになった。6日後、S君が多慶屋のあたりで買い物をしていたとき、警官から職務質問をされた。身分証を確認していた際に、警官はS君の財布の中にある未使用の3枚の偽造カードに気がついた。そして、S君に災難が降りかかってきた。彼は拘置所で50日も拘留され、最後は「不法磁気カード所持」の罪名で起訴され、裁判所で禁固1年・執行猶予3年の刑に処された。当時まだ23歳だったS君は、千葉県の大学の2年生だった。非常にまじめで勤勉な学生で、学校での成績も良かった。
S君が刑に処されたら、おそらく学業を修めることができなくなる。これに焦ったのが、彼のおばで、在日永住権を持つY女史だった。Y女史は、日本及び国内にいる全ての親戚・友人を動員し、また数人の日本の友人を集め、連名で法務省に陳述書を提出した。意思疎通によって裁判所の判決を覆し、S君が学業を修められるように望んだのである。私がY女史と知り合ったのはこの時であった。S君の不遇に深い同情を覚えた。普通の家庭の出身であるS君は一人っ子だ。両親は長年の蓄えを使って息子を海外留学に送り出し、息子が立派になることを望んだのだろう。それがこんなことになろうとは・・・
私は、日本にいる中国人の法律顧問にわざわざこのことを尋ねてみた。私が知る限りでは、このような件で、大勢の人たちが多方面からかなりの努力をしているようだが、いずれも無駄なようだった。思った通り、程なくして、東京出入国管理局がS君を呼び出し、国外退去を命じた。
S君のこの件では、誰もが(日本の友人を含む)残念だと感じていた。また、彼に同情もした。「法律」と法執行者の「まったく心を動かされない様子」が、人々を怖気づかせる。今までも私たちは、偽造証券などの生産・販売及び使用が違法であり犯罪だということは知っていたが、たった3枚の偽造電話カード、しかも「使用中」ではなく「所持」しただけで罪に問われたのは初耳だ。大使館領事部で働く友人は、この件について私と議論した際、このような一言を残した。これは私にとって非常に印象深いものであった。
「私たちは常々、日本人は法律を守り、素養が高いと思っているが、これは実際には『厳しく管理された』結果だ。」
国民全体の素養を向上させる上で教育が果たしている役割はもちろん肯定されるべきだが、ある国の国民性を長期にわたり形成する上で、法律が果たしている強制的な役割も無視できるものではない。
日本では、海賊版の映画・ドラマや音楽作品、それにパソコンソフトなど、著作権類の侵害にあたる作品は見ることができない(少なくとも私の知る限りでは)。「クリーン」という言葉で形容しても言いすぎではないだろう。不法製品の使用と所持に対してこのような厳しい懲罰が下されるのであれば、ほんのわずかな利益のために無謀な行動をする者があろうか!海賊版や偽造製品のプロフィットチェーンを根本から断ち切ること、これは、この種の不法製品を生産している者に打撃を与える最も有効な方法なのかもしれない。
「中国網日本語版(チャイナネット)」 2010年3月31日