作者:神田 和直
1986年、大阪市生まれ。神戸大学在学中に一年間休学し、あしなが育英会の中国研修制度で、中国青年政治学院へ留学中。
写真:2009年8月、南寧の農村地区に行き、茉莉花茶(ジャスミン茶)作りのお手伝いをしました。あしなが育英会中国研修制度を利用しているメンバーの集合写真です。後列右から2番目の首にタオルを巻いているのが筆者です。
中国の大学の夏休みを利用して、長距離列車で中国の旅を楽しんだ。北京、西安、洛陽、重慶、成都、蘇州、上海、南寧、桂林などをまわったが、その中でも良かったのは、初めての一人旅で行った蘇州である。
当初は大学の友人宅に宿泊させてもらえる予定だったが、急にダメになって、旅館を探すことになった。留学で使える費用は限られているので、一日15元(約200円)の安宿を探して泊まった。
そこは、大学生が就職活動する間よく使う宿で、30人ほど宿泊できる。部屋にはカギがなく、風呂場やトイレを全員で共用する。洗濯機がないので手で洗うという初めての体験の毎日が続いた。
最初は財布やパスポートを盗まれないだろうかと何かと警戒し、誰を信じればいいのかわからないので不安だったが、数日間、中国の大学生たちといっしょに暮らすうちに、不安は消えていった。外国人の宿泊者は私一人だけだったが、よほど珍しかったのか、次々に私のところに来て、「どこから来たの」「旅行? それとも留学?」「日本では仕事を探しやすいか」などなど、いろいろな質問を私に投げかけてきた。
そのうちに友人も増え、友人から友人へと「日本人がいるぞ」と私の情報が伝わってゆき、おかげであっという間にほぼ全員が私の部屋を訪ねてきて、みんなと友だちとなった。
蘇州では一日中、雨が続く日も少なくない。雨の日はさすがの彼らも外出しないことが多く、世間話をして過ごした。春節(旧正月)に、家に来るよう招待してくれた人もいた。日本に興味のある人が多く、関西弁を教えたこともある。
彼らとは同じ釜の飯を食う仲―中国語では「好朋友」となった。彼らと交流した記憶は、私にとってはかけがえのない宝物である。
成都から蘇州に向かう長距離列車は、硬い座席で四十数時間を要したが、一人旅にもかかわらず、まったく退屈することがなかった。中国人は本当にお喋り好きで、隣席の人たちとすぐ家族のように話し始める。誰とでもすぐに良い関係を築けるのは、中国人の良いところだろう。
こういった旅行での出会いや留学生活を通じて、私の中での中国に対する認識が大きく変わった。これからも、中国で出会った人々との縁を大切にし、彼らと「好朋友」であり続けたい。(文=神田 和直)
おすすめスポット
北京郊外の「野長城」
北京郊外の山はイチオシだ。北京には数多くの日本人のサークルがあり、私はその一つの「燕京山の会」に、何度か参加させてもらった。北京の山が日本の山と違うのは「野長城(手つかずに残された長城の跡地)」が見えることだ。山の上に続く、この世界遺産の厳かな美しさは、ここでしか味わえないだろう。
「人民中国インターネット版」より 2010年4月29日