北野武が描く裏社会の荒唐無稽ぶり
久しぶりのヤクザ映画となる新作「アウトレイジ」。カンヌでインタビューに応じてくれた北野武監督が暴力映画についての考えや、故・黒沢明監督とのつながりなどを語ってくれた。
北野武監督にインタビューを行ったのは、カンヌ市で最も有名なホテル「マルチネス」のデラックスルームであった。すでに3日連続でインタビューを受けており、私たちのインタビューはカンヌで受ける最後のインタビューであった。北野監督は見るからに疲れていて、愛想笑いをすることもなく、下目使いで私たちを見下ろしていた。
だが、話をしていくうちに、そんな無愛想な表情は実は作りつけのものであることが分かった。話が盛り上がれば、廊下まで聞こえるほどの大きな声で話をするし、質問の内容が面白いものなら、百面相のように大げさに表情を変え、周りが腹を抱えて笑うほどジョークを飛ばす。インタビュー時に写真撮影が禁止されているのが本当に残念に思ったものである。
少年時代について語る
「お袋がいたおかげで、ヤクザの世界に入らなくてすんだ」
新京報:北野監督は若い頃ヤクザの世界に入られたことがあるのですか?
北野武:街のビルにヤクザの看板を上げることができる国は、多分日本だけだよ。他の国の裏社会と比べると、日本のヤクザは暴力沙汰が多いよな。俺が子どもの頃はさ、特に俺らみたいな下町の職人街で育ったような子どもにとっては、ヤクザになるってことは、よくあることだった。ひどい環境で育ってきたからね。神社の賽銭箱から金盗むとか、そんな犯罪を悪いことだとか思ったことは無かった。
うちはお袋が厳しくてさ。じゃなかったら、俺も絶対ヤクザの仲間入りをしてたと思う。俺の周りにいた奴らなんかみんなヤクザになったよ。でも誰一人、幹部になった奴はいないなぁ。その中の半分がもう死んじゃったよ。もし俺がヤクザになってたら、もしかしたら親玉になってたかも知れないなぁ、って時々思うよ。まぁ、その前に死んじゃってる可能性の方が高いな(笑)。
新京報:映画のシーンに、少年時代の暴力的な環境を描くことが多いようですが
北野武:仕方ないよ、俺、暴力映画を撮るのが好きなんだもん。前に暴力映画を撮ってた時、いろんな人から「暴力映画しか撮れない奴」って言われてさ。だから、暴力映画はちょっと止めておいて、他のテーマの作品を作るようにしたんだ(注釈:北野武はこの7年間、暴力映画を撮影していない。この間の作品は「TAKESHIS’」「監督・ばんざい!」「アキレスと亀」)。でも、撮ってて全然面白くないんだよね。こんな映画撮っても、ただ疲れるだけ。それで、やっぱりヤクザを題材にした映画に舞い戻っちゃったってわけ。長いこと映画監督やってて、やっぱりヤクザ社会を題材にしたものが面白いって分かった。