日本映画を語る
黒沢明監督からの手紙
新京報:カンヌのコンペティション部門の出品作に選ばれたことは、北野監督にとってどのような意味合いを持ちますか?
北野武:コンペにノミネートされたって聞いた時、最初は冗談かと思ったよ。こんな映画がなんでコンペに?ってね。
新京報:カンヌ国際映画祭は北野監督にとってどんな存在ですか?
北野武:俺が初めてフランス南部でやる大きな映画祭があるってことを聞かされた時、頭の中では、ブリジット・バルドーがあの官能的な身体で海岸を歩いている様子しか浮かんでこなくってね、それですんごい期待してたんだ。1996年に「キッズ・リターン」で初めてカンヌに招待された時、人いっぱいだったんでびっくりしたね。あちこちにアメリカ映画の広告看板があがっててさ、ショー見てる感じだったなぁ。あの年のカンヌの思い出と言ったら、インタビューにレッドカーペット、この2つしか覚えてないね。
「キッズ・リターン」は最終ノミネートには残らなかったけど、ベネチア映画祭でグランプリをとったから、それからは、賞をとることにはこだわらなくなったね。
新京報:海外で多くの賞をとっていることで、故・黒沢明監督と並ぶ巨匠と呼ばれていますが、黒沢氏が「日本映画をよろしく頼む」と北野監督に託された、というのは本当ですか?
北野武:映画界ってさ、才能のある人や、地位のある人がいっぱいいる訳よ。みんな誇り高くてさ、新人監督に手を貸してやろうっていう奴は少ないんだよな。俺が映画をやり始めたばかりの頃、みんな「お前みたいな畑違いの奴に、映画なんて撮れるものか」って思ってたわけよ。あのころ俺を「監督」なんて呼ぶ奴にまともな奴はいなかったな。あの頃は、映画撮りながらも、実際内心では焦ってた。
でも黒沢明監督は別だった。亡くなる前に、俺宛てに短い手紙を書いてくれててさ。「北野君、とてもいい仕事をしている。君がいなかったら、日本映画はきっとめちゃくちゃになっていただろう。私の頼みをよく覚えておいてほしい。これからも日本映画の伝統を高めて行ってほしい。黒沢明」って。この手紙は、黒沢監督のお嬢さんが俺に届けてくれたんだけど、俺すごい感激してね、額に入れて家に飾ってあるよ。映画撮ってるときに挫折しそうになると、この手紙眺めてね、「黒沢さん、がんばって撮り続けますよ」って誓うんだ。
記事出典先:新京報
「中国網日本語版(チャイナネット)」 2010年5月31日