◆世界に散らばる日本の産業
日本は天然資源に乏しい。だが、視点を変えて見ると、日本は世界中に資源を保有していることに気付くだろう。
日本の企業集団は数十年もの歳月をかけて、海外における優れた産業構造を構築してきた。製造業の川上産業から、製品の研究開発、設計、中核となる製品の製造、販売に至るまで、6大企業集団は大量の資源および産業の主要部分を掌握してきたのである。そのため、日本の経済の大きさは、GDP(国内総生産)ではなくGNP(国民総生産)を見なければならない。世界中に存在する日本の企業集団の実力は決して軽視出来ないのだ。
1950~1960年代以降、6大企業集団を中軸に、国外の鉱山開発計画が進められた。日本は天然資源を輸入し、製品を輸出するという加工貿易を推し進め、更にはローエンド製品の製造を海外移転させることで、良好な経済システムを地球規模で培ってきた。これは日本の国民経済の「成長と均衡」という2つの課題を、企業の力だけで実現したことを示している。
三井物産株式会社第8代社長の上島重二顧問は、一世を風靡した総合商社についてこのように語っている:「日本独自の業態である総合商社が、なぜあれほど成長し得たのか?それは日本が天然資源に欠けることが根本になっている。資源がないから、近代的な工業化国家として発展するしか道はない。そして、工業化のためには海外の天然資源に頼らざるを得なかった。国外の資源を輸入し、国外の技術を採り入れることで日本の産業は栄えたのである。だが、天然資源にしろ、技術にしろ、それを海外から購入するには外貨が必要になる。そのためには日本で製造された製品を海外向けに販売し外貨を稼がなければならない…。総合商社は全世界を相手に業務を行なっていたのである」
鉄鉱石を一例として挙げてみよう。日本の企業集団の一角となる総合商社は、鉄鋼メーカとの株式相互持合いにより、緊密な相互依存関係を結び、数十年におよぶ海外鉱山開発・投資に注力してきた。こうして今の川上産業の基礎が固まったのである。
鉄鉱石世界3大メジャーであるリオティント、BHP ビリトン、ヴァーレはいずれも日本の企業集団を株主としている。鉄鉱石の採掘、輸送、価格の取り決めに関して、大株主である新日本製鐵株式会社の発言権は強大であるが、鉄鉱石の価格交渉において、低価を要求することはあまりしなかった。なぜなら鉄鉱石が高騰しても、鉄鉱石のサプライヤーの株主であるため、輸入面での損失が補えるだけでなく、さらに高い収益を得ることになるかも知れないからである。
◆リスク軽減のための経済主体