文=陳言
大地震に比べれば金銭、地位、生活の不安定なんて何でもない。命は脆く、人生は短い。
今年の日本のイメージを一言で表すなら、菅総理が年初の施政方針演説で語った「最小不幸社会の実現」がふさわしいだろう。こんなスローガンを掲げる政治家は菅総理ぐらいだ。
彼の危機管理意識が鋭かったのか、不吉な予言だったのかはさておき、この演説後、3カ月も経たないうちに大地震、津波、そして原発事故が発生し、世界を震撼させた。今の日本は前途多難、不幸を「最小」に止めるだけで精一杯だ。
私の周りには30~40代でも未婚の友人が多い。3月11日の大震災当日、東京でも大きな揺れを感じ、鉄道や地下鉄は全て運休となった。友人の一人、田中氏は数年付き合っている彼女の家まで3時間かけて歩いていった。彼女が部屋のドアを開けた時、二人とも目を潤ませながら同じことを考えていた。結婚しよう。大地震に比べれば金銭、地位、生活の不安定なんて何でもないじゃないか。命は脆く、人生は短い。
震災後、結婚を考える日本人が急増している。ここ4ヶ月、各大手百貨店はどの商品も震災前と比べ売り上げが落ち込んでいるが、婚約指輪だけは売り上げを伸ばしているという。日本の婚約指輪は、男性側の収入と正比例するのがしきたりで、基本的には、少なくとも1ヶ月分の収入をつぎ込まなければならず、決して安い買い物ではない。しかし、婚約指輪の売り上げが震災前と比べて15%アップしていると報告する百貨店が多数あり、中には40%アップしているところもあるという。
多くの人々が結婚を考え始めている。余震も続いており、現実問題として、既に大きなダメージを受けている福島第一原発がいつ完全に崩れ去るとも限らない。しかし、このような放射線の脅威にさらされながらも、日本人、少なくとも東京の人々はすぐにその憂鬱とも言える社会環境になじんでいくのだ。
今、日本中で節電が叫ばれ、ビジネス社会でもクールビズが認められるようになってきたが、女性はやはり汗でアイラインが消えることを覚悟の上で丁寧に化粧をし、男性もまたやはりスーツに革靴で出勤する。変わったことと言えば、ネクタイをしなくなった程度だ。東京の街は以前と何ら変わらない。また、混み合う静かな地下鉄車両の中でつり革を握るそれぞれの手を見ても、そこに運命の相手を決めた輝く指輪の数が増えたようには感じられない。