難度の高い製造
米国は1950年代、ミサイルのノズルと弾頭の耐熱や耐腐食などの難題を解決するため、レーヨン系炭素繊維を開発した。1959年、日本の近藤昭男氏がこれに続き、ポリアクリロニトリル(PAN)系の炭素繊維を発明した。炭素繊維は、軍事分野で武器装備の性能を高めるすぐれた性質を持つため、軍事強国はこれを重視するようになった。一部の国は投資を拡大し、さらに高性能で種類も豊富な炭素繊維を次々と作り出した。日本は、強度と弾性の併存などカギとなる一連の技術の難題を克服し、優れた耐疲労性と環境適応能力を備えた炭素繊維複合材料を実現し、炭素繊維の開発をリードしてきた。
炭素繊維はシンプルに見えるが、その製造工法は非常に複雑で、多くの学科にかかわり、精密で先端的な系統的プロジェクトである。化学工業・繊維・材料・精密機械などの多くの学科分野にかかわり、製造過程では温湿度・濃度・粘度・流量など1000以上の変数を精密に制御する必要がある。少しでも誤差があれば、炭素繊維の性能と質量の安定性が大きく損なわれる。そのため一般の工法技術では通用しない。
炭素繊維と複合材料の応用が広まるにつれ、大規模生産が産業化発展の大きな課題となりつつある。大量生産においても原理は同じだが、各種の製造における変数の正確な制御の難度はまったく異なる。10トン級や100トン級の生産ラインの技術を1000トン級の生産ラインにそのまま使うわけにはいかない。例えば重合反応は大量の熱を生むが、温度の均等性と恒常性をコントロールするのは非常に難しい。このため高性能の炭素繊維を安定的に生産できる国は極めて少なく、核心技術は長期にわたって日本と米国の大企業によって握られている。このうち日本の3企業の炭素繊維の生産能力は世界の4分の3を占め、業界最大の3巨塔とされている。
国防装備をグレードアップ