中国はアジア太平洋最大の貿易国であり、世界第二の経済大国でもある。その市場の潜在力の魅力は抗いがたく、TPPがすべての加盟国の心をつなぎとめておくことができるとは考えられない。中国はアジア太平洋自由貿易圏の推進を加速し、将来的にはTPPに加盟する可能性も排除していない。TPPと中国の自由貿易圏の推進が対立関係でしかあり得ないと断定するのは時期尚早であろう。
TPPの合意が達成され、運用が始まるならば、必要なのは、事実に即して問題を捉えることである。12カ国には、ベトナムやフィリピン、ラテンアメリカの国々などが含まれ、発展水準や社会統治の方式には大きな差がある。米国が掲げていた労働者や環境保護にかかわる高標準は引き下げを余儀なくされ、最終的に合意されるTPPは妥協を経たものであるほかない。
中国のGDPは、米国以外のTPP交渉国11カ国の総和とほぼ変わらない。中国のアジア太平洋における経済的なプレゼンスと影響は消すこともできないし、避けることもできない。米国自身も、中国との貿易の継続的な拡大に前向きである。アジア太平洋の経済において米国が圧倒的な支配力を誇った時代はもう過去のものとなった。
オバマ大統領のTPP推進にあたって中国の台頭への対処が主要な戦略的考慮の一つとなっていることは間違いない。「フィナンシャル・タイムズ」はかつて、ワシントンは時計の針を2001年の中国のWTO加盟前に戻そうとしているのだとの観点を示した。だが時計の針を逆戻しすることはできないのであり、米国は現実に直面する必要がある。