731部隊と協力関係にあった山西路安陸軍医院の軍医・湯浅謙は、石井四郎部隊長ともじかに接触している。湯浅自身も、14例の生体解剖に参加したことを認めている。
「生体解剖のことは学校で先輩軍医から聞き、心から嫌だと思っていた。だが軍国主義教育を受けていた私は、人道とは何かを考えることは根本的になかった。解剖室に入ると、二人の中国人がいた。一人は私と同じくらいの身長で、30歳過ぎのがっしりした男だった。共産党の幹部か解放軍の戦士ということだった。縄で縛られ、下を向き、少しも動かずに立っていた。横には40歳過ぎの男がいて、畑から連れて来られたばかりの様子で、『アー、アー』とうめきながらうなだれていた。解剖室には2台の手術台があり、手術用のメスやハサミなどが置かれていた。その場にいる軍医や看護師は笑顔で、怖いとか恐ろしいとかいった雰囲気はなかった。生体解剖を軍医の練習か何かだと考え、2人の人間を殺すとはとらえていなかった。異議をはさもうとすれば、処分を受けるか、国内に送り返され、戦争を支持しない『非国民』とみなされただろう」