筆者は、未来5-10年の中国の世界貢献について、上記で上げたこと以外にさらに以下の3点を新たに提案したい。第一は、台頭する中国自身が体現している経済体制・政策の理論化・普遍化である。世界経済は2008年の金融危機により大きな混乱が起こった。金融危機に伴う混乱は、世界の実体経済に影響を与えただけでなく、世界がこれまで拠り所としてきた資本主義の経済・金融システムに対する信頼の揺らぎという、経済理論そのものにまで及んだ。特に先進国などの資本主義国家においては、金融システム手法の複雑化により、これまでの資本主義理論や政策に一定の限界が来たのではないかとの議論も巻き起こった。
中国の政治家や研究者は、2008年金融危機の教訓を踏まえて、中国が進める経済・社会体制を「中国の特色ある社会主義市場経済」と呼び、その優位性を説く意見を多く発表している。しかし筆者の分析によれば、どの意見も“結果的に”中国経済の持続安定性が保たれている理由を説明しているだけで、中国の「社会主義市場経済」を理論化・普遍化することにはまだ成功していない。中国という国家自身がこの経済体制の完成に向けて現在進行中であるという事情もあるが、それにしてもマルクスやアダムスミスのような理論体系化を目指そうという動きは見えてこない。大げさに言えば、中国の「社会主義市場経済」の理論化・普遍化は、今後の近未来の世界経済に貢献していくために不可欠の研究活動なのである。