杉江聡子
2012年は中国訪問の機会が多い年であった。目的は現地調査や国際学会。3月には湖北省と吉林省、8月には上海を訪れた。正式なミッションについてはさておき、この2度の訪中で共通して印象的だったこと。それは、電動バイクとQQである。
3月、武昌で一泊を予定しており、空港から市中心部までリムジンバスで移動した。ホテルは比較的新しいチェーン展開しているホテルで、日本から地図をプリントアウトして持参した。バスを降りて徒歩数分で到着する「見込み」だったので、スーツケースを転がしながら移動する。運悪く、スコールに見舞われ、雨宿り。空が暗くなると、急に風景が変わってしまうのは、中国に限らず外国の街で常に感じるところである。地図の通り歩いていたはずが、あるべきところにホテルがない。こういった、日本からの「想定」や「見込み」が現地でひっくり返るのが中国である。そこが面白いからこそ好きなのだが、悪天候に長時間移動の疲労が両肩・腰・足にずっしりきていると、どうにもテンションが上がらない。雨の日はタクシーがつかまらないのも中国の常である。道行く人にホテルの位置をたずねるも、「不知道」。そこへ電動バイクに乗った若い兄ちゃんがやってきて、横を通り過ぎるかと思いきや、速度を落とし停車。「Where are you from?」的な言葉を発したように思う。中国語でコミュニケーション取れるとわかると兄ちゃん、それはそれは饒舌で、地図を見てホテルを探してやると言う。雨じゃなければ武漢の観光スポットも紹介するのに、いや金は払わないよ、等と言い合いながら、小さな電動バイクに巧みにスーツケースを格納し、後ろに巨大なリュックを背負った私を乗せて、「ミィィ~~~~ン」という静音と共に出発。ちょうどこの時期、自動車法規の翻訳を多くやっていたので、このバイクは電動か?と尋ねると、武漢市政府の決まりで電動じゃないと走れないんだと言う。こういう点が突然、超先進的な概念で運営されている中国の不思議を実感する。ホテルもほどなく見つかり、兄ちゃんは「QQ持ってる?また必要なら呼んで!」とQQ番号を交換し、霧雨に滲んで去って行った。驚くべきことに、お礼は受け取らなかった。バイクタクシーのドライバーではなく、本当にただの良い兄ちゃんだったのだ。一期一会。