近年中国は、上述の「2014国家気候変動対応計画」に見られるように、行政が主導的に気候変動対策に乗り出しているところである。しかし今後の課題はその持続性(サステナビリティ)を高めるために国家が産業の環境対策を牽引するのではなく、産業が自発的に「環境保護」を事業に活用できるように切り替えていかなければならない。馬の尻をたたいて走らせる政策から、馬の前にニンジンをぶら下げて走らせる政策に切り替え、さらには馬が走るのに慣れてくればニンジンを徐々に減らしていかなければならない。
経営学・産業戦略の観点から効果的な「ニンジン(民間インセンティブ)の制度設計」を考えたい。中国政府がある政策を示した時、直感的には、国家中枢に近い国有企業や大企業が最も国家政策に敏感に反応するように思いがちであるが、実は中規模企業が最も敏感に反応し、続いて国有・大企業、そして最後に小規模零細事業者が反応するという研究報告がある。この理由は経営学上諸説あるが、政策背反した場合の罰則・ペナルティーの大きさの順位からこれが説明できる、という分析仮説が私は正しいように思っている。もしこの分析仮説がある程度正しいのであれば、大企業向けではなく中規模事業者にとってメリットが最も大きいニンジン政策(ボトムアップ型の政策目標達成メカニズム)は即効性のある政策となるかもしれない。 ニンジンの中身は、CSR発展型としてグリーン企業(より環境保護・省エネ重視の製品・サービスを提供する企業)が、中国内マーケットで高いブランド力を発揮できるようにマーケットを成熟させることだ。最終消費者がグリーンな製品・サービスを購入する際には減税や補助金などの優遇策があるという仕組みは一般的だが効果的なものである(日本の例で言えば、エコカー減税やエコポイント制度など)。 中国の中規模事業者が反応しやすい具体的なニンジン政策を多数実行していくことが、次代の中国気候変動対策になっていくはずであろう。