日本銀行はこのほど、驚きの姿勢を示した。黒田東彦総裁の2期目初の金融政策決定会合で、物価目標2%の達成時期を経済・物価情勢の展望(展望リポート)から削除したのだ。黒田氏は5年前の「デビュー」時に、「2年内に物価目標2%を達成」と堂々と宣言していた。ところが日銀はその後、6回連続で達成時期を延期し、スケジュール表を書き換えた。
この段階でスケジュール表を取り消すことは、量的緩和策の後退と判断されやすく、円高と株価下落が生じる可能性がある。日銀は慎重に量的緩和策から撤退する最良の時期を伺っていたという観点もある。日銀は2016年末以降、物価目標が達成までなお遠く、コアCPIが1%前後で推移しているにも関わらず、国債購入額を減らしている。そのため日銀のこの措置は、「技術的な量的緩和策の撤退」と解釈されている。
黒田氏は「達成時期と政策変更を機械的に結びつけているわけではない。市場に誤解があった」と発言した。しかし実際には政策の余地が残されておらず、打開策を打ち出せないでいる。日銀の債務残高の対名目GDP比は100%に迫っており、米連邦準備制度理事会の4倍、欧州中央銀行の3倍にのぼっている。マネタリーベースは量的緩和策前の3.6倍に膨れ上がっている。国債と上場信託基金の保有規模が新記録を更新し続けており、前者は2012年末より3倍拡大し、後者の規模は全保有株の4%弱に達している。これらの数値は、日銀の政策の余地が極限まで狭められていることを示している。