4日付日本経済新聞はトップ記事で、「日本の大学の研究力の地盤沈下が鮮明になっている。東京大学は学術論文の生産性で中国の清華大学に逆転された。米欧の有力大学との差も開いたままだ。日本のイノベーションの土壌が痩せてきている」と伝えた。記事の要旨は下記の通り。
日本経済新聞は学術出版の世界大手エルゼビア、自然科学研究機構の小泉周特任教授と協力し、国内外209大学の「大学革新力創出指数」を算出した。学術論文数と研究者層の厚みに加え、引用件数が多い論文の割合(研究の質)と研究者1人当たりの有力論文数(論文の生産性)を比較した。
東大の数値からは、日本を代表する研究機関の弱点が浮かぶ。2012−16年の東大の学術論文数は10年前からさらに増え、米ハーバード大学や米スタンフォード大学などに続くトップ10を維持する。だが12−16年の東大の論文の生産性は94位に沈み込んだ。この10年間の大きな変化は中国の清華大学の台頭だ。02−06年は東大がいずれの指標も優位だったが、12−16年は清華大が生産性で逆転。競争の構図が劇的に変わった。
日本の大学で何が起こったのか。ノーベル物理学賞受賞の天野浩名古屋大学教授は、「ネット時代にうまく乗れなかった」と話す。米ではグーグルやフェイスブックなどが興隆し、大学も産業構造の変化に対応してきた。清華大も人工知能(AI)の論文引用数で世界の上位に入る。日本の大学は国際化の競争から取り残されつつある。
中曽根康弘首相(当時)が提唱し、1989年に始まったバイオ研究の国際プログラムは、「他国の研究者との共同研究」を条件に支援を行った。支援を受けた研究者からは、27人のノーベル賞受賞者が出た。「助成を受ける日本人はほとんどいなくなった」と、プログラムの責任者である広川信隆東大特任教授は話す。日本人は海外の研究者と組むことが少なくなり、「最新の知見」が得られなくなった。特に日本政府は研究者に競争原理を持ち込むなどの手を打ってきたが、待遇が不安定になった若手を中心に、短期間で成果が出る小粒のテーマで論文数を稼ぐ事態が生じた。
研究力の地盤沈下が進めば、日本の大学は企業にも素通りされる。トヨタ自動車は自動運転のAI技術を開発するため、5000万ドルを投じスタンフォード大や米マサチューセッツ工科大学と共同研究を行っている。トヨタは「世界最高峰の研究をする相手を見つけたとき、それが米大学だった」とするが、文部科学省幹部は「日本の大学が相手にされていない」と嘆いている。この10年、日本はノーベル賞の受賞ラッシュだったが、足元は危うさが増している。大学や研究機関は、抱える課題と再興の糸口を探るべきだ。
「中国網日本語版(チャイナネット)」2018年6月5日