クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」(以下「同クルーズ船」)から下船する前、香港の乗客の黄雅馨さんはこの世界に戻ることを記念するため、念入りにメイクすることを決めた。突如訪れた新型コロナウイルス肺炎により、このクルーズ船は予定より15日遅れて港に到着した。
楽しいはずだった旅行が中断された。蔓延するウイルスにより、ダイヤモンド・プリンセスなど多くのクルーズ船が「漂う孤島」になった。これは意外にも、密閉された場所で感染対策を行う見本を疫学に提供し、世界の人々に向け警鐘を鳴らした。
17.1%の感染率、実際の拡散水準を意味せず
17.1%。これは横浜港に停泊中のダイヤモンド・プリンセス内の感染率だ。
新型コロナウイルス肺炎患者が1月20日、同クルーズ船に乗船してから1カ月内に、船内でウイルスが急激に拡散した。2月20日現在、計3711人が乗る同クルーズ船内の634人の乗客が感染した。6人に1人の計算で、中国大陸を除くと感染が最も集中しているエリアとなった。
日本政府は22日、下船した23人は2月5日から始まる医学観察期間中に、新型コロナウイルスの感染が確認されなかったと表明した。ところが栃木県から伝わった情報によると、同県の60歳の女性が19日に同クルーズ船から下船したが、22日に感染が確認された。
上がり続ける感染率により、同クルーズ船が注目を浴びている。厚生労働省の情報によると、20日には船内の80歳以上の日本人2人が死亡した。同クルーズ船で死者が報告されたのは初。死者が出たことで、船内の乗客の発症率と、17.1%という感染率がウイルスの実際の感染水準を示しているかが懸念されている。
中国医学科学院基礎医学研究所の黄波副所長は、中国新聞社のインタビューに応じた際に「同クルーズ船は特殊なケースであり、これを基準とし新型肺炎の感染率を推算することはできない。感染率が高いことには2つの原因がある。まず船内には基礎疾患のある高齢者が多いこと、それから隔離後に神経が張り詰めたことにより乗客の免疫力が低下し、新型コロナウイルスにつけ入る隙を与えたことだ。これにより発症率が高いという現状に至った」と述べた。公開されたデータによると、同クルーズ船の乗客のうち60歳以上が約80.4%を占めている。
新型コロナウイルスの基本再生産数「R0」(1人の患者が何人に感染させるかを示す数値)はまだ確定されていないが、ランセットなどの権威ある医学誌の複数の論文はこれを2.0−4.0の間とした。つまり感染者1人が平均で2−4人に感染させることになる。中国疾病予防管理センター疫学首席科学者の曾光氏はインタビューに応じた際に、「現在の資料に基づくと同クルーズ船の同数値は3.0前後だが、実際の数値は3.0を上回るとみられる。そのため同クルーズ船の感染率は学術界の判断を上回っていない」と述べた。