文=日中産業研究院院長 松野豊
中国の2020年第2四半期の実質GDPは前年同期比3.2%の成長で、上半期の成長率は-1.6%となった。中国は世界の主要国の中でいち早くコロナ問題から立ち直りつつある。
日中間の貿易に目を向けると、上半期は輸出入量とも減少していたが、7月に入って日本からの輸出が増えている。品目では、自動車関連、一般機械、電子部品などの輸出が増加しており、主に製造業などのサプライチェーンが回復しつつあると思われる。
日中間貿易は、輸出入額だけで見ると日本の輸入超過に見えるが、香港経由のものを加えると近年はほぼ均衡している。また日本の製造業は、中国への輸出額をあまり伸ばさず、中国に設立した現地法人の売上高を伸ばしてきた。これは日本企業が中国に進出して現地化が進んできていることを意味する。
また日本経済における貿易収支の位置づけは、この10年で大きく変化した。日本は世界有数の経常黒字国であるが、その黒字は貿易収支から得られたものではなく、日本企業の海外投資による所得収支(配当収入等)である。一方中国も経常黒字国であるが、黒字のほとんどは貿易収支から得ている。
日本は1970年代から今日までの50年間で、約10年おきに産業構造の転換に成功してきた。企業が事業環境の変化に応じて、研究開発や国際分業を進めて国内の産業構造を付加価値の高い領域にシフトしてきたためである。
日中間貿易の動きを中長期的に見るために「輸出特化係数」に注目してみた。全産業平均の輸出特化係数はゼロ付近であり、日中間貿易は金額だけでなく品目別でも全体としては均衡していることがわかる。
また品目別では、自動車部品、半導体部品、化学製品などで日本の輸出競争力が高く、衣類、食料品、情報通信機器は中国の競争力が多い。機械製品は近年中国の競争力が高まり、量はまだ少ないが日本の医薬品の中国輸出が増えてきている。
2020年上半期、マクロ的に見ればコロナ問題の影響はあまり大きく出ていない。つまり貿易額、貿易品目の両面からみると、日中は産業構造的には補完関係が成立しており、日中間のサプライチェーンは最適化されていて安定的な状態にある。日本政府の製造業に対する移転支援政策の影響もおそらく限定的だろう。
今後日中間貿易が変化する要因として重要なことは、中国の産業構造転換(転型)の進展であろう。しかし中国製品の競争力が高まって日本から中国への輸出量が減ったとしても、日本企業が中国の現地法人への投資拡大を行って現地化を進めれば、日中貿易が赤字でも日本の所得収支を増大させることは可能である。日中間貿易については、今後も安定的にウインウインの関係が継続していくだろう。
「中国網日本語版(チャイナネット)」2020年9月2日