中国と世界の市場をつなぐ「双循環」
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 瀬口清之
2020年第4四半期の中国経済の実質GDP成長率は6.5％で、新型コロナウイルス流行発生以前の水準に戻っている。昨年は主要国全ての経済成長率がマイナス成長となった状況において回復の勢いを保っている中国経済は、引き続き世界経済のけん引力として大きな役割を果たしている。これにより、中国が対外開放を堅持しかつ深化させることの意義が、今まで以上に顕著になっている。
双循環の真の目的とは
中国が昨年「双循環」の発展という新たな局面を打ち出して以降、中国の全体的な政策が内向きになり、対外開放重視から国内の声を重視する政策にかじを切ったのではないかという見方が特に国際社会で多く見られるが、私の見方は少々違う。「双循環」は中国が一貫して推進してきた対外開放を重視するという方針を受け継いでいるからだ。
2017年に開催された中国共産党第19回全国代表大会で、中国は国家の目標を成長率の追求から経済社会の質の向上に移すこととした。また中国が質の向上を求めれば求めるほど、高度なレベルの技術やサービスを導入する必要があるが、これは中国国内での調達が難しいため、海外に依存しないという姿勢が中国にあれば、優れた外国企業は中国に来なくなってしまう。それは中国と世界にとって大きな損失だ。よって中国は今まで通り市場を開放し、世界中から魅力的な企業を集め、イノベーションの力をつけ、世界とともに発展する中国市場を形成することで、中国の国内循環の力になっていくと私は思うし、双循環の本当の目的になると考える。
中国は中国市場と世界の大きな市場をより緊密に結びつけようとすると同時に、国内流通でもより突っ込んだ改革を模索している。第14次五カ年計画は、中国共産党第19回全国代表大会で発展目標を質の向上に転換して以降初の五カ年計画だ。その初年度の今年、法に基づく国の統治、知的財産権の保護、中小企業の育成、医療介護の重視などの改革をどのような順番で準備をするかに私は注目しているので、今回の「両会」でも中国のマクロ経済政策に注視したい。
日本企業の期待高まる中国市場
「双循環」発展という新たな局面は、日本企業にとってもより多くのビジネスチャンス到来を意味している。中国市場の魅力と新興企業の技術力は、すでに多くの日本企業から認知されている。5年前に中国の新興企業と提携して中国市場を開拓したいと考える日本企業は決して多くなかったが、今はかなり多くの企業がそれを希望し、日本のメガバンクにマッチングの紹介を強く要望するようになっている。需要の多さを受け、メガバンクでは中国の新興企業を中心とするマッチングビジネスが主軸の一つになりつつある。これは中国の技術力やイノベーションの向上、中国市場が拡大して高級品が売れるようになっていることが背景にあると思う。
こうした日本企業と中国の新興企業のマッチングは、日中協力において双方に利点をもたらすものだ。日本企業は中国企業と手を結ぶことで中国市場のニーズを把握し、市場を開拓し、マーケティング能力の不足を補うことができる。中国企業は日本企業との協力を通じ、日本の成熟した技術を用いて自分たちの発想をより洗練されたな形で製品やサービスにつなげていくことができる。深圳や北京には日本企業と提携する多くの新興企業があり、その分野はIT、AI、自動車のデザイン、eコマースなどにわたっている。
今後は、中国市場が米国市場と並ぶ世界で最も重要な市場だと感じる日本企業が増えていくだろうし、変化が早い中国市場のニーズに対応し、製品開発力を高めるために、日本企業は中国国内に研究開発センター新設の動きが増えてくるだろうと予測している。同時に現地への権限移譲を進め、中国で開発された新技術を中国市場に効率的に投入するため、本社ではなく現地で迅速な経営判断の決定ができるよう、日本の組織が中国寄りに変わっていくのではないかと思う。それを実現するために必要なのは、本社社長の決断だ。そのためには自分の目で中国を見て理解している社長が必要となってくる。競争の激しい中国市場で一定の成果を上げたいのであれば、日本企業の経営陣は口先で中国市場を重視するというのではなく、実際に行動を起こさなければならない。
人民中国インターネット版 2021年3月7日
中日両国 > 
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