毎週金曜日の午後3時、北京市海淀区華清園コミュニティでは少し変わった日本語教室が開かれている。その日のテーマは方位詞だった。
「では、練習しましょうね。肖さんの『隣』に座っている人は誰ですか」。教師を務めるのは笑顔がとても親しみやすい、22歳の日本人留学生である小野真希さんだ。彼女は2018年に北京に来て、2019年の秋からここでボランティアとして日本語を教えているという。
「えっと、肖さんは誰のことでしたっけ。忘れたわ」「『トナリ』ですか。これは『マエ』で…これは『トナリ』だ!」「座っている…肖さんの隣に座っている人は李さん」
生徒たちはノートを見たり、周りの人とあれこれ相談したりと、実に勉強熱心だ。そのような光景は他の語学学校などでも見られるだろうが、華清園コミュニティの日本語教室の特徴は、生徒たちが皆自ら進んで集まった40歳以上の住民であり、今年85歳の参加者もいるという点だ。
北京市海淀区華清園コミュニティで日本語教師のボランティアをする小野真希さん(写真=本誌金知暁記者)
「みなさんのうち半分はこの華清園コミュニティの住民で、もう半分は別のコミュニティから来ている方です。日本が好きでよく旅行に行くので、日本語で交流ができたらいいなということで参加された方もいれば、退職後に自分の趣味を見つけたいといって学ぶ方もいます」と、小野さんはクラスの状況を紹介してくれた。
華清園コミュニティは清華大学や北京語言大学など多くの大学が集まる五道口エリアにある。昔から留学生が多く、通りには外国料理のレストランが軒を連ねるとてもにぎやかな町だ。このような環境にある華清園コミュニティは2012年頃から、北京第二外国語大学など留学生の多い大学と提携し、外国人を招いてさまざまな文化体験や外国語学習イベントを行ってきた。
もともと小学校6年生の時から中国語に興味を持ち、大学で中国語を学んだ小野さんは、現地で勉強したいと思い、中国へ留学した。2019年の秋、当時北京語言大学で3年生だった彼女は、他の留学生とともに華清園コミュニティが主催する中秋節のイベントに参加した際、そこの日本語クラスで教えてくれないかと誘われた。「中国語を学び始めた時、たくさんの中国の方に勉強を支えてもらったので、ボランティアという形で恩返しができたらいいなと思い、引き受けました」と、小野さんは当時のことを振り返る。
コミュニティ内のサークルだった日本語クラスに小野さんが来て以来、生徒たちは毎週欠かさず参加し、最初は「あいうえお」から学び始め、今では簡単な会話も聞き取れるようになった。「中国のお年寄りはとても元気で意欲に溢れていて、みなさんの姿を見ていると教師のボランティアをしてよかったと嬉しくなりますし、私ももっと頑張ろうと元気をもらっています」と小野さんは語る。
北京市海淀区華清園コミュニティの日本語クラスで生徒を指導する小野真希さん(写真=本誌金知暁記者)
実は、小野さんにとって日本語教師は初めてのボランティア活動ではないという。「13歳の頃から老人ホームのお祭りや子ども祭りなど、今までさまざまなボランティアをやってきました。でも、そういう活動は単発のものがほとんどで、中国で続けて行っているボランティアが私にとって一番特別で印象深いです」と小野さんは言う。
北京語言大学に入学後、小野さんは手話サークルに参加し、そこで「児童希望之家」という孤児院がボランティアを募集しているのを知った。そこでは2歳から9歳までの障害を持つ子どもがおり、小野さんは2018年の秋からボランティアを始めた。
「報酬があるわけでもないのに、なぜボランティア活動に熱心なのかとよく聞かれますが、活動の中で人と人との心の交流ができるし、お金では得られないことを学べる一種の学びの場所だと私は考えています」と小野さんは自分の気持ちを語った。