現職の菅義偉首相が間もなく行われる総裁選への不出馬を表明すると、自民党内の同ポスト(次期首相)をめぐる争奪戦が新たな段階に入った。想定外の事態が生じなければ、日本の第100代内閣総理大臣が新顔となる。
「短命政権」の再現は再び、日本の政局の代名詞である「十年九相」及び「一年一相」を想起させた。実際には首相の人気の長短を左右するのは政治の成績であるが、自民党の派閥政治の制度的特徴にも従わなければならない。これは新首相が、解決が待たれる感染対策、経済再生、党内団結という3大難題で局面を打破できるかにかかっている。
まずは感染対策だ。日本の3日の感染者数は依然として1万6738人と多く、累計感染者数は154万人を上回る。わずか26日で100万人から150万人に増え、日本の感染の第5波の感染ペースが上がり続けている。日本政府は感染対策が振るわず、ガバナンス能力の弱点を露呈した。政府は感染対策措置の制定に力を入れず、関連法があっても強制力は限定的だ。しかもリスクを冒し開催した、成果が限定的で巨額の赤字を出した東京五輪は、日本の一般人の新型コロナウイルスに対する感覚の麻痺を生んだ。誰が菅氏の後を継ぐにせよ、感染対策の大きな進展を直ちに実現できるかは疑問だ。
次に経済問題だ。日本のGDPは今年第2四半期に前四半期比で0.3%微増した(年率換算で1.3%増)。経済がプラス成長に転じたが、感染対策の不徹底及び個人消費の持続的な疲弊が依然として、日本経済の回復の足を引っ張っている。誰が菅氏の後を継ぐにせよ、経済立て直しは困難だ。安倍晋三氏はアベノミクスの実施により、積極的な金融政策、柔軟な財政政策、民間投資の発展、消費増税などによる経済振興を試みたが、効果は限定的だった。菅氏はさらに無策で、東京五輪による政治の成績に期待するだけだったが、それも何の効果もなかった。今や日本経済は感染症の影響を受けており、企業は活力がなく、失業率が高止まりしている。どのような選択をするかも、次の首相の眼前に突きつけられた難題だ。
それから党内団結だ。これまで再任を積極的に目指してきた菅氏が急に退任を決定したが、その主な理由は党内から信頼を失ったことだ。周知の通り、派閥政治は日本の政党政治の目立った特徴だ。無派閥の菅氏は当初、圧倒的な大差をつけて自民党総裁に就任したが、これは細田派、麻生派、二階派などの大派閥の支持を集めたからだ。ところが今や政権維持を最優先する自民党は、衆院選という大きな試練を迎えている。現職の党総裁が国民の確かな利益に関わる多くの敏感な件をめぐり不満を集めているため、間もなく行われる選挙に向け各派閥の領袖が菅氏を切るのは自然なことだ。
自民党は遅くとも今年11月末に衆院選を迎える。与党の地位を失い政権交代が生じる確率は微々たるものだ。しかし選挙で大勝しより多くの政治的資本を蓄積しようとする現実的な考慮、あるいは政権の基盤を固め改憲の目標を達成する長期的な考慮により、自民党が今回の選挙に期待し、非常に重視していることは間違いない。
先ほど行われた多くの選挙の「前哨戦」で、自民党は何度も敗北を喫している。自民党は4月の衆参両院議員補欠選挙・再選挙で失敗し、3議席のすべてを野党に奪われた。7月の重要な東京都議会議員選挙において、自民党が期待通りの議席数を獲得できなかったことから、自民党と公明党による連立与党は過半数の目標を達成できなかった。8月下旬、菅氏と深い間柄で自民党が強く推す小此木八郎氏が、横浜市長選挙で落選した。これら一連の選挙の失敗、特に菅氏が「政治の地盤」とする横浜での落選により、党内では菅氏が衆院選で自民党を率い有権者の支持を得ることは不可能とする見方が強い。
そのため、党内の風向きを正確に把握し建設的な対策を打ち出し、党内から認められ(特に若手議員から信頼され)、かつ選挙の勝利に向け打ち出せる看板を持つかが、各候補者が総裁選で勝利を収める鍵となる。同時に党内のポスト及び政治資金を争う基本的な単位である各派閥は本質的に、「首相は持ち回り制で、今回はわが派閥から」を願っている。安倍氏のような「豪腕政治」を行えなければ、再び首相が頻繁に交代されることになるだろう。
自民党総裁及び首相の交代は、日本の外交、特に中日関係に影響を及ぼす可能性があるため、その変化を静観するのが最も妥当かもしれない。長期的に見ると、「政治大国化」、政界の「全体的な保守化」という政治環境の影響を受け、日本の外交の「伝統的国家主義」のカラーが日増しに濃厚になり、周辺諸国との齟齬が頻繁になる。中期的に見ると、中日両国間の構造的な食い違い、歴史問題などを始めとする数多くの問題が再び顕在化する恐れがある。短期的に見ると、米国が対中けん制を絶えず強化する外部環境に、日本の政界の対中タカ派の勢力強化が続き、民間の中国に対する好感度が持続的に低迷するといった内部の条件が加わり、中日関係改善は新政権の政策な主な選択肢になりえない。
ここで強調しておくが、すでに総裁選出馬を表明している自民党の要人のうち、岸田文雄氏は「中国対抗」を主な任務としている。河野太郎氏は新書「日本を前に進める」の中で、「対中同盟組織」の発足を騒ぎ立てている。右翼タカ派の高市早苗氏は歴史問題で暴言を繰り返し、かつ中国に対抗すると放言している。対中強硬路線を貫くにせよ、「中国問題」をツールとして国内の批判をかわすにせよ、日本の新任のリーダーが本気で中日関係の改善を目指すことはなさそうだ。当然ながら安倍氏を始めとする日本の新世代のタカ派政治家集団は派手な演出を繰り返す傾向があり、中国に対して機会主義的な政策を講じ、中日国交正常化50周年の機会を利用し「その場限りの外交」をリニューアルする可能性を否定できない。多事多難の時に多事の人物が現れ、日本の政界が落ち着くことはなさそうだ。(筆者・呂耀東 国際関係学院国際政治系学者、中国社会科学院日本研究所研究員)
「中国網日本語版(チャイナネット)」2021年9月6日