どこの国でも鉄道は同じようなものである。先頭車両のデザインが、丸や四角や口の尖った爬虫類の形に変わるだけで、それが列車である限り、その下には必ず2本のレールが敷かれている。春、花が咲き乱れる山あいのクネクネと曲がる線路を列車はゆっくりと走って行く。外を眺める自分の姿が車窓に映る。山々の緑が覆いかぶさるように襲ってくる。窓ガラスを伝って糸のように流れ落ちる水は透明で清らかだ。
カメラマンの翟東風さんと一緒に西へと向かう。大阪を出発して九州の博多で降りる。別府市の温泉旅館に着いた時にはすでに夜になっていた。今回の鉄道の旅は、まさしく日本を「駆け抜けた」旅だったと思う。
土田晶代さんは新幹線の運転士をしている。小柄で笑顔が素敵な女性だ。他の日本人女性のように笑うときに手で口を塞いだりしない。新大阪駅構内の業務室で取材を行なう。背筋をピンと伸ばして座る彼女。私と話をするときの表情は、新幹線を運転するときのものと変わらない。これはその後、新幹線の乗務員室に入った時、彼女の表情を観察した時の感想だ。「会社には意見箱があって、改善すべき所があると思ったら紙に書き、自分の意見を上に伝えることができます。私は運転士をやってきて、ずっと新幹線の上のキラキラした青の線が気に入りません」と話す彼女。ピンと伸ばした姿勢は崩さない。手振り身振りをするわけでもない。「新幹線の運転士免許は誰でも取得できる訳ではないのでしょう?」と聞いてみた。
「私は服飾を勉強していました。もともと鉄道とは何の関係もなかったのですが、数年ほど前から日本でも女性運転士が誕生し始めると、どうしても自分で新幹線を運転してみたいと思うようになりました」と答えている。大阪駅の駅長によると、土田さんが所属する西日本旅客鉄道株式会社では、2002年から女性乗務員の採用が行なわれていて、今ではその数は全線で11名となっている。