朝9時を過ぎると、先ほどまで通勤客でごった返していた大阪駅も落ち着きを取り戻す。大きなバックパックを背負った旅行者らがプラットホームにたむろし始める。連れ合いと話をする者、地図を広げて何処かを探す者…、まるで休日のような雰囲気が駅全体に漂っている。土田さんについて、駅構内の運転士用通路から出て行く。土田さんは歩幅が小さいとは言え、足運びは早く、一歩一歩が小気味よく聞こえる。通路の上は鉄骨で組まれた屋根だ。そのせいかどうか知らないが、こだまする土田さんの足音にも金属的な音が含まれているようだ。
新幹線の発車時間が近づいている。土田さんは運転室に入り、右腕を上げ、確認の必要な箇所を指さしながら大きな声で「信号よし!」「8両」「発車1分前!」と声を上げる。車両がゆっくりと動き出す。運転台の制御器を右手で上に押し上げていく。土田さんのキビキビした動作に、業務員室の空気すらも緊迫したものに変わる。小柄な彼女が運転席に座ると、前面窓ガラスが大きく感じる。ガラス越しに次々と目の前に広がる風景は山あり、海あり、川ありと変化に富んで魅力的だ。景色がもの凄い勢いで後方へと流されていくのを眺めていると、その景色が押し寄せて来たかのような錯覚を覚える。
その新幹線は最高時速283キロメートルである。トンネルを走り抜けた時、速度計がその数字を差した。運転台には光が差し込み、土田さんの頬を照らしている。土田さんの真剣なまなざしを見て、素敵だなと思った。
「中国網日本語版(チャイナネット)」 2012年4月22日