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心の中の竜神
川が流れている場所では、地元の人々が川に名をつける。様々な名で呼ばれていても、指すのは同じ川である。中国ではこの川を「瀾滄江」と呼ぶが、ミャンマーやラオス、タイを流れる部分は「母なる大河」という意味の「メコン川」と呼ばれている。この川が南ベトナムに入ると、いくつもの川に分かれて海に注ぎこむ。その形を大地に横たわる9つの竜になぞらえ、「クーロン(九竜)」と呼ぶ。面白いことに、雲南のシーサンパンナの人々は古代、「瀾滄江」を「九竜川」とも呼んでいたという。川の中に九頭の竜が住んでいるという伝説があり、そのために流れがこれほどまでに急なのだと考えられてきた。
竜は瀾滄江─メコン川のシンボルとなった。地元の人々にとって、川はただの水ではなく、神の化身である。古来、瀾滄江─メコン川は一貫して、流域の人々に神として畏敬されてきた。
タイとラオスに、古くから広く伝わる伝説がある。昔々、青竜、白竜という2つの竜神がいた。善良な青竜は邪悪な白竜より強かったが、そのことを受け入れられない白竜は、青竜に勝負を挑んだ。そして、途中で地貌を破壊しないというルールで、高山から海へ向かって走ることになった。勝負が始まったとたん、青竜はたちまち高山や岩石を避けて遥か遠くへと去っていった。青竜に置いていかれそうになった白竜は、山林を破壊したり岩石を砕いたりしながら、急いで追いかけた。2頭の竜は互いに絡みあいながら海を目指した。こうしてメコン川中流、タイとラオスの相接する地域に、流れが緩やかで静かな青い川、あちこちに岩礁のある白い川、という2つの異なる川が形成された。
2つの川が絡みあうようにして交錯しながら、ラオス南部に位置するラオス・カンボジアの国境地帯に流れ込むと、突然河床が裂けて陥没し、「コーン」と呼ばれる巨大な瀑布群を形成する。コーンの滝はメコン川における最大の瀑布群である。地元の言葉で「コーン」を軽く発音すれば「川」のことになるが、強く発音すると更に大きなパワーをもつという意味になり、コーンの滝のことを指す。「コーン! コーン!コーン」。人々は神について語るような口ぶりでコーンの滝を語る。彼らにとって、瀑布の存在こそが神の霊験の現れなのである。
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