「収穫が多いから、今度はもっと大きいショッピングカートを使わなくっちゃ!」香港上水駅で大きな荷物を抱えた深センの主婦、小雯は満足げに笑った。
彼女のショッピング袋に詰められているのは、香港を訪れる旅行客が夢中になる贅沢品や輸入物の化粧品ではなく、毎日使う日常品で大きなボトルに入った有機醤油まで入っている。
「仕方ないの、深センの物価が急激に上がって、多くの物はすでに香港以上の値段になったわ。」頭が切れる小雯の計算によれば、深センで1袋2元の塩が、香港のスーパーでは1.1香港ドルで人民元に換算するとわずか9角ほど。富士りんごは深センで1斤(500g)6元にまで上がり、平均一つ4元だが、同じ大きさのものが香港では10香港ドル出せば4つも買える。750mLのRejoiceシャンプーは深センのスーパーでは39元、香港では61香港ドルで2つ買える等等……
小雯のように「都市移動」ショッピングをする消費者は、深センでは少なくない。深センの物価高騰や香港ドル対人民元の継続的切り下げにより、過去30年に渡って盛んだった香港人の北上ショッピングはパタリと止み、今度は逆に深センの人々が香港入りして大量買いするようになっている。
深セン統計局の最新統計データによれば、今年9月、深セン市の住民消費者物価指数(CPI)は前年同期比で3.8%上昇した。全国水準の3.6%よりやや高い程度だが、ほとんどの市民がこの数値をはるかに超えた物価高騰が起きていると感じている。
小雯が毎月節約のために香港に行って大量買いするのとは逆に、香港在住の彼女の叔母である李さんは、もう長い間深センに来ていない。以前、上水に住む李さんは茶飲み友達を連れてよく朝の飲茶を利用しに深センに来ていた。飲茶の後はスーパーに行き、果物やトイレットペーパー、靴下などの安価な日用品をまとめ買いしていた。現在、李さんとその友達は財布の紐を固く締め、深センで週末を過ごすことはなくなった。「数年前、深センの物価は香港の半分ほどだったのに、今はもう香港に追いついてきたわね。ファーストフードでも20~30元かかるし、香港ドルも急落してしまって、私のお金はますます値打ちがなくなっているわ。」李さんは小雯によくこうこぼす。
彼女と同じように、持ち金が少なくなっていると感じているのは、深センで暮らす香港人である。以前深センの不動産価格と物価はともに香港以下だったため、中低所得者の香港人が香港で仕事、深センで生活というパターンを選択するケースが少なくなかったが、今、このような「両都市」生活は深センの物価上昇の影響を受け、香港に戻らざるを得なくなった者も少なくない。
深セン皇御苑に住む香港人の黄さんは近々そのマンションを売って香港に戻ろうと考えている。黄さんは香港上水の服飾工場に勤務し、月収は14,000香港ドル。香港の高い物価に耐えきれず、6年前、深センにマンションを購入した。毎日深セン香港間を往復し、ゆとりある生活を送れていた。「以前、100香港ドルは116人民元に両替でき、私はよく家族を連れて外食していた。毎月の日常的支出は3000元ほどだったが、今、100香港ドルは85人民元にしかならず、支出は以前の倍になった。加えて毎月4000元以上の住宅ローンがあり、生活はますます厳しくなっている。」ともらす黄さんは、既に今度の春節前に家族を連れて香港に帰ることに決めた。
昔は、香港人が北上して「まとめ買い」をしていたのが、今では深セン人が南下して消費を行っている。大きな角度で見れば、「深セン香港一体化」にはまだまだ時間がかかるが、この「都市移動消費」の変遷から見れば、その融合の加速を感じ取ることができる。それと同時に、深セン人はインフレがただの予測ではなく、確かに存在するものであることを実感している。
「中国網日本語版(チャイナネット)」2010年11月3日