その理由としてまず第一に、鳩山内閣がまたたく間に散ってしまったことも、民衆が民主党に期待した、変化に柔軟に対応する精神が根本から揺らいでいることを意味しているのではない。世界はますます先行き不透明になっているし、それをとりまく環境もすでに変わってしまった。なのに、日本人は自分の慣れ親しんだゲームのルールを変えていない。こういった状況では、旧ルールに馴染まない人々は慣例という猛烈な反発を受けることになるだろう。
第二に、菅直人氏の持つ「敵対感覚」が、変革を推し進めて柔軟な統治体制を構築する助けになるかもしれない。既存の資料が示しているように、他の日本の政治家と異なり彼は、都市生活者と市民の民主的活動を長年にわたって取りしきった経験があり、強大な官僚制度に否定的である。「日本の政策は80%までが官僚によって策定されるのであり、国民が選んだ政治家による政策は20%だけなのです」と発言したこともある。菅直人氏は政治家と一般大衆を結ぶ同盟を作り、政治家から離れて独自に運用される硬直化した官僚体制を否定し、改造し始めるかもしれない。菅直人氏が本当の意味で、社会生活の細部に最も敏感な民衆との間で心を通じ合わせることができるなら、体制の中において決断と実行の柔軟性は大きく高まることが予想される。
第三に、菅直人氏には改革を実行しようという決心があり、「損得関係」を改革に利用しようとする意志と手腕がある。様々な場で同氏は、20年という長きにわたって政府が一貫して借金によって支払いを続け、停滞した経済が回復するのを待ちつづけたせいで、負債がGDPに占める割合が上がり続け、先進国中で最悪の状況となったのだと発言している。幾度となくギリシャ財政危機と類比して、日本もヨーロッパと類似の財政問題を抱えていることを指摘し、ここで財政再建をしなければ、後はいったん債務市場の信用が失われるだけで、国家財政は崩壊する恐れがあると警告している。事実、同氏は日本の財政問題とギリシャ財政危機との相似性を強調している。彼がこのような発言をくり返すのは、改革の気勢を盛り上げ、大胆な改革に正当性を持たせることが狙いである。一般市民に経済的損失の不安を抱かせることで、改革に協力的な世論を形成しようとしているのである。