以上のことをまとめると、労働力ニーズにはこれを決定づける資本と給与という2つの要因がある。資本が多ければ多いほど労働力需要は高まる。給与が下がったときも、労働力ニーズは増加する。こうした基本の理論を用いれば、米国の給与がなぜ中国よりも高いのかを理解することができる。それは米国人の擁する資本が中国よりも多いからだ。米国の一人当たり平均労働力に対する需要は中国よりも大きい。
こうした労働力需要の理論によって、中国の経済が発展し、ここ数年はじわじわと給与が増加している理由を説明することができる。経済発展における最も重要な要因は、資本の増加だ。資本が増加すれば、生産も増加する。また労働力需要も増加し、これにつれて給与も増加する。これらはみな経済発展でみられる現象だ。経済学会は1960年代後期、このような経済発展理論に重要な補足を行い、労働力の質を3つ目の重要な生産要素とみなすようになった。これは人材資本と言われる。米国のシカゴ大学のセオドア・シュルツ教授およびゲーリー・ベッカー教授は、人材資本が経済発展に与える重大な影響を提唱する。人材資本とは労働力の質を指し、物的資本と同じく投資によって得られるものだ。国の人材資本は歴史的な伝統と教育への投資とによって得られるものだ。この新しい理論では、教育への投資が経済発展の3番目の重要な要素とされる。1番目の要素(物的資本)と3番目の要素(人材資本)が増えれば、労働力需要の増加をもたらし、中国の給与の上昇にもつながる。