▽過度の業績重視と販売数の優先で革新能力が低下
ソニーの原点にあるのは技術革新。創業者の井深大は1946年、「真面目なる技術者の技能を、最高度に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」という設立目的を設立趣意書に掲げた。それから数十年、ソニーは、半導体ラジオやウォークマン、3.5インチフロッピーディスクなど画期的な12の技術革新製品を世の中に送り出してきた。だが「1990年代後半から、ソニーの革新能力は明らかに弱まってきた」。20年にわたってソニーを取材してきた日本経済新聞編集委員の西條都夫氏はその原因を、ソニーの経営理念が技術優先から販売優先に変わり、ソニーの体質が変化したことにあると見ている。プロ経営者は、技術開発が核心であることを認めながらも、業績を過度に重視し、販売量を指標とすることで、ソニーの革新能力を弱めることになった。今日のソニーにとって「エンジニアカルチャー」は「綱渡り」だ。経営者に試されているのは、市場開拓と技術革新の間のバランスを取る能力である。ベストセラーのゲーム機の開発を率いたソニーの元副社長は、現在の事業部長には新製品の開発経験のある人が少なく、優れた製品の開発で頭角を現す社員が欠けていると苦言を呈する。
東京大学ものづくり経営研究センターの特任研究員を務める吉川良三氏によると、韓国のサムソン電子は、1997年のアジア金融危機を契機として、製造業戦略の大転換を実現。デジタル技術をうまく利用して人気製品を開発し、すばやく大量生産に乗り出した。日本企業は一方、技術時代の成功をなぞることに固執し、独自の技術体系の構築にこだわり、チャンスを逸した。