この半世紀の中国社会におけるアイドルの変化を見ると、そこから時代や価値観の大きな変化を知ることができる。それは「理想主義的アイドル」から「堅実主義的アイドル」への変化だと総括することができる。
時代に刻印された往年のアイドル 1990年代以前、中国の若者にとってアイドルとは英雄と言うべき存在であり、各時代における「神」といえる存在だった。2003年、中国青年出版社は『赤色ファッション(紅色時尚)』という書籍を出版した。同書は雑誌『中国青年』の1923年の創刊から現在に至るまでの歴史を回顧したものだ。しかし、それは意図せず中国のアイドル史を整理する内容にもなっていた。
中国の有名なヒーローとアイドルの多くは、この雑誌から全国へと広まっていった。女性トラクター運転手の梁軍、中国のコルチャギンと呼ばれた呉運鈬、公共財産を守るために犠牲となった向秀麗、民兵を守るために犠牲となった王傑、毛主席に愛された軍人の雷鋒、自身の命を顧みず窮地を救った欧陽海、人生観論争を引き起こした潘暁、障がい者となっても志を通した張海迪、長江を漂流した堯茂書などは『中国青年』との関係が少なくない。
時代によって生まれるアイドルも異なる。理想主義の80年代が終わると、物質崇拝の90年代が到来する。政治的なアイドルはなりを潜め、「四大天王(アンドリュー・ラウやアーロン・クオックなど)」やジェイ・チョウといった大衆文化のアイドルが主流となっていった。