日中経済協会
調査部長 高見澤学
世界的にグローバル化が大きく進み、情報通信技術の発展に伴う技術革新が各地で生じるという新たな時代の転換期を迎え、日中両国の経済関係を巡る環境も大きな変貌を遂げている。今回、中国政府は12月18日から20日まで北京において中央経済工作会議を開催し、中長期的な経済の方向性を踏まえつつ、2018年に向けた経済政策の基本方針を示した。会議では、中国の経済発展が新たな時代に突入し、質の高い発展段階への転換が必要であることを指摘した。
2018年は中国の改革開放40周年という記念すべき節目であり、また全面的な小康社会の実現を目指す第13次五カ年計画のちょうど中間点であることから、特に重要な1年として位置付けられている。このため、2018年の経済運営は、積極的な財政政策の方向は不変としつつも、財政支出は重点分野に傾斜させ、一般支出を圧縮するとして、取捨選択による経済政策を進めようとしていることが分かる。また、懸念されている地方政府の債務管理の強化も重要な財政政策の一つとしている。
一方、これまで続けられてきた穏健な金融政策については、中立性を維持し、通貨供給の蛇口をしっかりと管理するとして、通貨の供給側に対する監視を強める政策に方向を転換していることが分かる。それにより、社会の融資規模を適正な範囲内に抑えることができるのと同時に、システム的な金融リスクの発生を防止する狙いがある。
今後3年間の重点施策では、①重大なリスク回避、②貧困脱却、③環境汚染防止の3点が挙げられている。つまり、当面の課題として、実体経済に適合した形での金融システムを構築することよって金融リスクを回避すること、貧困層の内在的なエネルギーを活性化することで貧困からの脱却を目指すこと、汚染物質の総排出量を大幅に削減し、産業構造等の転換や省エネ強化を進めることで環境汚染を防止していくことである。そして、これらの措置は、いずれも質の高い経済発展と切っても切り離すことのできないものである。
今回の会議では、質の高い発展のために、8項目の重点政策を実施するとしている。すなわち、①供給サイドの構造改革の深化、②市場主体の活力の活性化、③農村振興戦略の実施、④地域協調発展戦略の実施、⑤全面的開放の推進、⑥民生の水準の引き上げと改善、⑦さまざまな主体による供給、複数ルートによる保障、賃貸と購入が共存する住宅制度の構築の加速⑧生態文明の建設である。
これら重点政策の成功のカギは、イノベーションにあると言っても過言ではない。イノベーションといっても、単なる技術的な革新ばかりではない。様々な制度やシステム、メカニズム、或いは人々の発想や思考方法においても、イノベーションが必要な時代になっている。
産業的な面からいえば、従来型の伝統産業においては技術革新や生産管理の効率化によるレベルアップが必要であることは間違いないが、それに加えて、昨今のIoT、ビッグデータ、人工知能(AI)の発展による異なった産業間の融合が進み、これまでの第1次、第2次、第3次産業の概念が大きく変わろうとするほど、産業の概念に対する大転換が起ころうとしている。
確かに、米国トランプ政権による政策の実施や英国のEU離脱決定など、経済的な面でも一部で反グローバル化の動きはみられるものの、総じていえば地域統合に向けた流れを変えることはできなくなっている。特に中国は、自由貿易を唱え、「一帯一路」構想を打ち出すなど、グローバル化推進の一翼を担い始めている。投資誘致と海外進出の両面で投資の自由化を進め、輸出の高度化と輸入拡大による貿易の不均衡是正に向けた対外経済政策が強化されつつある。
経済のグローバル化の進展、第四次産業革命の到来という新たな時代を迎え、新たな創造が必要なのは中国だけではなく、全世界の共通課題となっている。世界各国が協力して、新たな経済発展のモデルを創り上げていくことが求められているのである。