日中経済協会
調査部長 髙見澤学
本年7月6日、米国政府は中国から輸入する340億ドル相当の製品に対する追加関税措置を発動し、中国と米国の「貿易戦争」が幕開けとなりました。昨年の回復基調からやっと軌道に乗り始めた今年の世界経済だが、今回の貿易戦争による動揺が広がりつつあるのも確かだ。
これまで、世界経済の成長の原動力となってきたのは自由貿易を軸としたグローバリゼーションである。このことは多くの人が認めるところであろう。それゆえ、GATTやWTOなど、自由貿易の推進に向けた国際ルールに基づくマルチ貿易の枠組みが構築されてきたのである。日中両国は共に自由貿易によるグローバリズムを標榜し、反グローバリズムや保護貿易に対して反対の意思を明確に表明している。その具体的な行動が日EUや中国ASEAN等の多国間FTAなどである。それに対し、米国が進めているのはTPPやパリ協定からの離脱など、グローバリゼーションの流れとは逆行する動きである。
こうした米国に対して、日中両国は他の先進国や新興国と連携し、自由貿易及びグローバリゼーションのメリットを再確認し、機会あるたびにそれによって得られた利益・恩恵を繰り返し訴える必要がある。また、グローバル・プレーヤーとしての行動理念を共有し、率先してWTOが定める公正な競争ルールの遵守に努め、自由貿易の推進を行動で示すことが重要である。その一方で、過去グローバリゼーションがもたらした副作用を最小限にくい止めるための改善を提案して、より高いレベルでの自由貿易体制の構築を目指すことも大事である。
他方、ここ数年IoT、AI、ビッグデータなどの技術革新によって経済成長が支えられてきている。生産活動や生活スタイルが大きく変わり、それに伴うグローバリゼーションも進展している。こうした社会変革は、今後一層加速することが予想され、その変革に応じた国際的な標準やルール作りが不可欠になってくるだろう。世界が新たな次元の成長をグローバルに創出していく段階を迎えているこの時に、保護貿易への回帰は時代錯誤と言わざるを得ない。