上海万博では「低炭素」社会を実現する要素が随所に見られる。例えば、不要になった牛乳パックが来場者の休むベンチやユニークなかたちの分別式ゴミ箱に「変身」していたり、パビリオン内で不要なコルクやロープ、繊維を使ってつくられた椅子が「モノを大事にする」ことについて語っていたり、植物由来の素材を30%使用したペットボトルがあったり……。こうした「低炭素」日用品は、「低炭素」生活は身近なところにあることを私たちに示唆している。
ブラジル館
ファヴェーラ・チェア
黄色と緑色のリサイクル可能な木材を使って建造されたブラジル館。「緑の鳥の巣」と称されるこの設計の発想は、ブラジルで有名な椅子「ファヴェーラ・チェア」にある。
この「ファヴェーラ・チェア」は館内のウエルカムエリアに設置されたスクリーンで目にすることができる。さまざまなかたちの木材スクラップを寄せ集めてつくったこの椅子について、「見た目はよくないが、とても実用的で快適。よく観察するとその芸術的センスが見て取れる」とブラジル館の係員は話す。「この椅子は重要な低炭素の知恵――モノを大事にすることを伝えている」。
「ファヴェーラ」とはブラジルのスラム街のこと。リオデジャネイロやサンパウロなどの大都市にはかつて、非常に密集した貧民窟があった。山の上に家屋がごちゃごちゃと建てられ、その建て込んだ家屋の間を狭い通路が走り、その上には電線が絡み合っていた。
デザイナーはこの「ファヴェーラ」からインスピレーションを得て、不要なコルクやロープ、繊維を使ってこの雑然とした、しかし実際に座ってみるとやわらかくて快適な椅子をつくり、「ファヴェーラ・チェア」と命名した。
「ファヴェーラ・チェア」には「モノを大事にする」気持ちが秘められているが、そこに新たな意義が与えられた。リサイクル可能な材料というだけでなく、ありきたりと見られていた物事の中に新しい価値を見出したのである。