林国本
楊国光さんは、中国の華僑、華人向け通信社の支局長として日本になが年滞在したことがあり、たまたま私が同じ時期に中国の日本向け週刊誌「北京週報」の特派員として日本に長期滞在していたので、ときどき、地下鉄の駅などでひょっこり出会ってよく立ち話をしていたが、楊さんは、社会主義運動の活動家ローザルクセンブルクや旧ソ連の情報工作員ゾルゲに非常に興味を持っているというのが印象だった。そしてそのためにいろいろ資料を集めているようだった。その後、ソルゲに関する書籍を出版し、関連する国際会議にもパネリストとして参加している。
楊さんはかつて旧ソ連に留学したことがあり、ソ連についても詳しく、旧ソ連の解体についても一家言をお持ちのようである。同じジャーナリストとして、私は1つのテーマにこれほど執着している楊さんに感心していた。私も当時、本田勝一の「カナダエスキモー」、「アラブ遊牧民」などのルポルターシュに興味を持ち、あげ句の果ては文化人類学にも凝り出していたので、世の中には同じような人間もいるものだなあ、と思って、ほくそ笑んでいた。
最近、楊さんがまた「経済学者王学文の伝奇的な革命の一生」という文章を中国の「百年潮」という雑誌に発表したので、拝読してみたところ、王氏はゾルゲが中国の上海で活動していた頃に、ゾルゲと接触していた人であることが分かった。日本、アメリカ、ドイツなどで公表されているゾルゲ関係の資料を通じて当時、王学文氏や日本人の共産主義者中西功らがゾルゲと接触していたことが明らかになっている。王学文氏は当時の東京帝大で経済学の勉強をしていた人で、河上肇の教えを受けたこともあるらしい。中国に帰ってからは革命に身を投じ、国際共産主義者たちの会合では通訳を務めたこともあるらしい。そしてこの頃、1928年に武漢で中国共産党に入党した楊さんのご尊父楊春松さんとも触れ合いがあり、その縁で台湾にも赴いて一年近く視察したこともあるらしい。