林国本
NHKの放送を聞くことは、日本と関連のある仕事を何十年も続けてきた私のような人間にとっては日課のようになっている。先般、中国人の日本旅行についての番組があり、日本人から見た中国人観光客のイメージを一応知ることができて、たいへん参考になった。
心理学の「他者のまなざし」とかいった難しい表現を使わなくても、他者の目に自分がどう映っているかを知ることは、自分をより深く知る面でいい勉強になる。
NHKの番組で、富士山観光の際に五合目あたりの観光グッズを売っているお店で、ある中国人が三百八十円一個の爪切りを1人で百個も買ったので、日本人はびっくりしていた。しかし、私の知人の日本人で、民芸品のコレクターの1人は、北京の民芸品店で、ショーウィンドーに並べてあるものを全部買って、店員さんをびっくりさせたこともあるので、私は短い日程でぐずぐずしていられない事情もあったのであろうと見ている。実を言うと、私もかつて日本訪問の際に日本の書店で、「不良債権の処理」、「金融工学」の書籍などをまとめ買いして、スーツケースに入りきれなくなって、スーツをホテルに捨てて帰ろうとしたが、結局、ホテルのショップでスーツケースをもう1つ買って解決したことを覚えている。
中国では社会の発展段階が日本と違いがあるし、同僚、一族の人たち、近所の人たちへのちょっとしたおみやげということで爪切りやせんべいなどをまとめ買いするのだろう。海外旅行がまだめずらしい段階にあることも一因かもしれない。
最近、ある雑誌で北京の順義第九中等学校元副校長の日本旅行記「私の目に映った日本と日本人」というものを読んだが、たいへん参考になった。大勢の人たちが日本へ行っているが、それぞれが自分たちのアングルから感想をつづっている。この元副校長の感想文は、比較社会学、比較文化人類学の視点みたいなものが感じられて参考になった。
昨年、知人の推薦で中国の大学生の日本語作文を採点させてもらったが、若者たちが日本のアニメや、村上春樹の作品に非常に興味を示していることに新鮮感を覚えはしたが、まだ、社会に出ていない若者たちのことだから、それほど深い掘り下げもないような感じも受けた。私なんかは、雑読で小森陽一氏の本を何冊か見ているし、スタジオ・ジブリについてもいろいろ本を見ているので、ミーハーの段階は卒業しているつもりでいるが、一介のジャーナリストとして違ったアングルから日本を見てもいる。つまり、関心の角度が違うわけだ。例えば、今回の民主党の代表選出についてもいろいろな人の発言をつぶさに聞いているが、一般の観光客にとっては、こういう演説よりも、興味は別のところにあるようだ。そういう意味で、この元副校長の旅行記は参考になった。私は数十年間日本と関連のある仕事をしてきたし、特派員として6年間も日本に滞在したのに気がつかなかったことにも触れているので、ははあ、こういうものの見方もあるのだと感心した。
日本旅行はだんだんと開放の幅を広げている。日本の観光事情に詳しい日本の業者も加わってくることになる、という記事も見た。距離的にこんなに近いところにあるのだから、日本に赴く観光客がもっと増えてもよいような気がする。
一時、口コミで、不法滞在者が出ることを防ぐために、旅行会社に保証金をあずけていくとかいう話を聞いて、私はうんざりした。そんな「不法滞在被疑者」扱いされての不愉快きわまる旅行はご免こうむりたい。
コンピューターの発達した昨今のこと、「不法滞在」、「不法就労」してもすぐ発覚し、その都度「本国返還」すればよいと思うが、こういう話題は内政にかかわるので、多言は控えるが、どうも5人や10人の「不法滞在」のために、数百人に門戸を閉ざすのはどうかとも思う。
この動きを見ていると、日本旅行はますます便利になる。そろそろ富士山、京都などのコースからさらに日本をより広く、より深く知るコースを拓くことを考えてもよい時期に来ているのではないだろうか。例えば、中国にはすでに5万人を超える日本語を勉強した人がいる。「伊豆の踊り子」コース、明治維新ゆかりの地コースなど開拓できる余地はかなりある。
「中国網日本語版(チャイナネット)」 2010年9月13日