北京のイトーヨーカ堂にあるおもちゃ売り場に行くと、日本のアニメキャラクターの周辺製品が多く並んでいるが、中国オリジナルのアニメキャラクターはあまり見かけない。ところが、一つの例外がある。それは、中国国産アニメ「喜羊羊与灰太狼」に因んだ羊と狼のぬいぐるみだ。子供ばかりでなく、若い人たちも可愛い「喜羊羊」や少し意地悪そうなイメージの「灰太狼」に心を惹かれ、玩具などの周辺製品を買っている。
キャラクター「喜羊羊」 |
スチール写真 |
キャラクター「灰太狼」 |
「喜羊羊与灰太狼」は最も長い中国アニメの一つで、500回以上もテレビ局で放送され、人気を博している。その勢いに乗り、劇場版が昨年と今年の春節にそれぞれ上映され、数百万元の投資で8000万元と1億2600万元の興行収入を獲得した。この数字は日本や欧米の人気アニメ映画には匹敵できないかもしれないが、中国のアニメに比べたらまさに天文学的数字と言えるだろう。
というのは、1億3000万元を費やした「国産大作」とされた「魔比斯環(メビウス・ストリップ)」の興行収入はわずか340万元だった。また、国産アニメ映画として3300万元の興行収入を記録した「風雲決」は8000万元も費やした。さらに悲惨なのは、数多くのベテランアーティストが声優を担当し、6年かけて作られた「小兵張嘎」は未だに映画館で公開されていない。これらのアニメの運命を考えれば、「喜羊羊与灰太狼」の興行収入はまさに奇跡と言わざるを得ないだろう。
日本のアニメ業者からは、「『喜羊羊』のようなものも中国市場であれほど儲かっているのか。中国市場がいかに広いかということを裏付けている」という感嘆がもれる。羊と狼の戦いという簡単なストーリーで、コストの安いFlash(フラッシュ)技術で作られたこの作品がなぜ放送回数、劇場版の興行収入、周辺製品の販売などの面で奇跡を作りだしたのか。この疑問を抱きながら、「喜羊羊与灰太狼」を創り出した広州原創動力文化伝播有限公司の広報部責任者の呉惇氏にインタビューした。
物語の登場人物の対立は不可欠
ーー制作の初期段階で、ストーリーの展開や視聴者の年齢層、周辺製品などアニメの全体像を既に設定していたのですか。日本アニメの影響もあって、中国でも大人向けのアニメ市場がだいぶ確立されていますが、なぜ子ども向けのアニメにしようと思ったのですか?
制作を開始する時に、だいたいの設定は考えていました。子ども向けに作ったのは中国の国情を考えてのことです。「喜羊羊」が大人の方にも受けたのは全く予想外のことでした。
ーー「喜羊羊」と「灰太狼」というキャラクターはどのように考え出されたのですか。多くの大人は「喜羊羊」を見て、「スマーフ」のキャラクター設定やストーリーに似ていると感じたようですが、制作者は制作時に「トムとジェリー」や「スマーフ」などのアニメの特徴を参考にしたのでしょうか。
「喜羊羊」と「灰太狼」のキャラクター自体は自分たちで考えました。物語が始まって発展していくのに、登場人物の対立というのは必要不可欠な要素です。登場人物同士に矛盾がなければ、物語は生まれません。私たちは過去のアニメやいろいろなものを参考にして、彼らを主役にすることを決めました。その理由としては、羊と狼が天敵であることは世界共通の認識であり、どの国でも羊と狼に関する物語があります。加えて、動物を主役にしたアニメは人々に受け入れられやすいからです。
私たちの制作チームは皆、アニメを見て大きくなりました。その為、作り出したアニメも自分の見ていたアニメの影響を受けています。しかし、私達が参考にしているのはあくまでもその手法で、内容に関しては自分たちで一から考えています。
制作の甘さと辛さ
ーー当初は生産コストを考えてFlashアニメを採用したのですか。「喜羊羊」の制作は続きますが、今後2Dや3Dで制作する予定はありますか。
多くの人が知っているように、アニメを作るというのは「お金を燃やす」のと同じようなもので、高品質のアニメの制作費が実写の何百倍もするということはよくあります。特に中国では、生産コストが放送収益をはるかに上回ります。そういった状況下で、海外アニメのように自由に制作することもできないし、チームや会社の存続もかかっている為、私たちは極限までコストを抑えた中でやっていかなければならなかったのです。しかし、安かろう悪かろうということは決してありません。一生懸命、丁寧に制作すれば、人々に喜んでもらえて視聴率も取れるものを作る事ができます。
将来的に2Dや3Dのアニメを作っていくことも、もちろん考えています。実際、映画の第2弾では既に、遊園地の背景を3Dで制作しています。まだ割合的には多くありませんが、将来的に増えていくことは確実ですし、今までよりももっとわくわくするような作品を提供していきたいと思っています。
ーー制作にはどのくらいの人が参加していますか。1980年代生まれの若者が中心だと聞いていますが、制作中は苦労も尽きなかったのではないでしょうか。どのように乗り越えてきましたか。
私たちのチームにはコメディ制作担当のベテランシナリオライターが20名近くと、100名あまりのエネルギッシュな若いイラストレーターがいます。平均年齢は25歳以下です。
作品が売れるか売れないかの時に、会社はテレビ局と年に208話の「喜羊羊と灰太狼」を制作するという契約を結びました。スタート地点に立ったばかりの会社にとって、これは前代未聞の大きなプレッシャーです。2004年から2005年にかけて、私たち「原創動力」の社員はほとんど全員が「喜羊羊」の制作にかかりっきりで、会社の収入が全くない状況が続きました。
あの頃は、一日中オフィスに篭って仕事をし、食事は皆でまとめて出前をとり、夜中の12時まで残業をしていました。夜中まで残業をして50人くらいで一緒に帰宅しようとすると、驚いたビルの警備員が恐る恐る、「こんな夜中までそんな大勢で残業をするなんて、あなた方の会社は何の仕事をしているんですか」と尋ねることもありました。この時期に給料が足りずに辞めていく人も居ましたが、大抵の人は諦めずに乗り超えてきました。
歯を食いしばって努力してきたおかげで、「喜羊羊」の人気はどんどん高まり、周辺製品も売れ始め、会社の資金繰りも安定してきたのです。
制作・宣伝・配給の連携プレイ
ーーSMG(上海東方メディア集団有限公司)と北京優揚メディア(北京優揚文化メディア有限公司)と共同で2008年に映画『喜羊羊と灰太狼の牛気冲天(超なまいき)』を制作しましたが、それが初めてですか。なぜ、その2社を選んだのでしょうか。
優揚メディアに関しては国内でも主要な子ども向け番組を発信している会社であり、知名度も宣伝力もあるので選びました。上海文広(SMG)は経験も実力もある会社で、信頼できます。両社は共同で市場での宣伝や配給の一切を引き受けてくれました。優揚文化メディアは中央テレビ局を含む国内のほとんどの子どもチャンネルでの広告代理権を押さえ、全国で映画の予告や宣伝を大々的に打つことができました。両社が市場の方を引き受けてくれたおかげで、源創動力社は制作だけに集中することができたのです。
このようにして、アニメの制作・宣伝・配給の連携プレイを上手くとることができ、お互いに得意分野で力を発揮し、映画を成功へと導く協力関係を築くことができました。
素晴らしい成績を収める事ができたのは、その協力関係があってこその事です。
ーー多くの業界関係者が言うには、アニメの放送権をテレビ局に売ってしまうと利益が低くなるそうですが、「喜羊羊」も同じですか。キャラクターのブランド効果が得られるようになって、それは改善されましたか。また報道によれば、「喜羊羊」の収益は放送権の販売が40%、本やCDが10%、周辺製品が20%、その他が30%を占めるそうですが、現在では周辺製品の販売が占める割合の方が高くなっているのでしょうか。
テレビ局の放送で得られる収益が少ないのはどこも同じです。「喜羊羊」も放送開始当初はいろいろと困難にぶつかりました。近年、人気が高まって、状況もいくらか改善されましたが、収益はそれほど増えません。やはり、周辺製品の登録商標を取得してからの収益の方が際立って増えていますね。多くの海外アニメが同じ道を歩んできたように、私たちも将来的には、放映権で得られる利益の割合がもっと小さくなり、周辺製品の利益が更に増えることを願っています。
香港、台湾、海外市場にも進出
ーー近年、中国アニメの世界進出の動きが高まっています。合作(例えば、中日合作の「三国演義」など)や、日本の漫画を真似る(「魁抜」など)ことで「喜羊羊」も国外に発信していこうと考えたことはありますか。また、源創動力社は今後、世界進出専用のアニメの制作を考えていますか。
世界進出に関しては私たちの長年の目標ですね。「喜羊羊と灰太狼」は2005年に放送が始まって以来、国内の60あまりの省や大都市のテレビ局で放送され、香港や台湾への進出も果たしました。
2010年には、台湾の長栄航空会社の機内でも放送されるようになり、大陸と台湾双方で成功を収めた最初の大陸アニメとなりました。同年7月23日には、「喜羊羊と灰太狼の虎虎生威」の台湾での上映も始まり、また2010年9月1日から10月31日にかけて、「喜羊羊と灰太狼」の「羊羊運動会」が台湾最大規模の民間機である中華航空の機内番組として放送され、これも大陸アニメとしては初の快挙です。
2009年6月17日、「喜羊羊と灰太狼」は海外進出も果たしています。中国オリジナルのアニメとして初めて、MTVの「ニコロデオンアジア」の「中国アニメ」という番組で放送され、アジアの17の国と地域で見ることができます。オーストラリアと北アメリカでも放送されています。また、私たちは引き続き、海外のテレビ局との協力を図り、中国オリジナルのアニメがもっと世界に羽ばたいていけるように努力していきます。
ただ単に世界に通用することだけを目的にしてアニメを作ろうとは考えていません。なぜなら、本当に傑出した作品であれば、民族も言葉も時代も超えて愛されるからです。私たちはこれからも中華民族の素晴らしい文化を取り入れたアニメの制作に力を入れ、自分たちの作品の魅力を信じ、世界中で愛される良いものを作っていきたいと思っています。
「中国網日本語版(チャイナネット)」 2010年10月9日