上海交通大学日本研究センター主任 王少普教授
11月9日、日本は環太平洋経済連携協定(TPP=Trans-Pacific Partnership)の協議に入った。2009年、アメリカのオバマ大統領はTPPに加入し、アジア太平洋共同体を作るというビジョンを示した。これによって、TPPの重要性は一気に高まった。アメリカは日本も加入することを期待しているが、菅内閣は苦渋の選択を強いられている。
問題となっているのは、まず、如何にして日本の農業の発展を保ちつつ貿易の自由化を図るかと言うことである。
日本がTPPに参加するべきか否かは国内でも意見が二分し、激しく対立している。内閣は、「TPPの加入によりGDPを最大0.65ポイント押し上げ、3兆2000億円の経済効果がある」と述べた。経済産業省は、「TPPに参加しなければ、輸出は1.53%減少し、10兆5000億円の損失がある」と言っている。しかし、農林水産省は「TPPに参加すれば、関税の廃止などが日本の農業に大打撃を与え、GDPは1.6%の7兆9000億減少する」と述べた。
上で述べたような予測は、菅内閣に二者択一の難題を突きつけた。多くの農業関係者が直接街頭でデモを行なうなどTPPの加入に反対している。そういった状況から考えても、波乱の渦中に居る菅内閣にとって、これは単なる経済を左右するだけの選択ではなく、政治面においても死活問題である。
次に、日本とアメリカが経済面で抱える矛盾も大きな問題となっている。
アメリカの農産物の輸出が日本に与える圧力というのが第一の矛盾である。「アメリカのような主要な農産物輸出国家がTPPに加入し、関税を撤廃すれば、日本の農業は深刻なダメージを受け、他の関連業界にも影響が出る」と農林水産省は指摘している。
アメリカが金融面での優勢を利用し、日本との経済競争で有利な立場に立つというのが二つ目の矛盾である。2009年の金融危機以来アメリカは、製造業を再生させ、輸出を増やし、経済が復興することを望んでいる。その輸出のターゲットとなっているのがアジア市場である。日本もまた、アジアにおける市場の拡大こそ経済成長の重要なエネルギーであると考えている。アメリカも日本も製造業ではトップクラスの技術を持っている為、両国の競争は激しさを極める。これまで述べてきたような状況は為替レートにも大きく影響してくる。現在の日本の極端な円高の主な原因はドルの価値が大幅に下がっていることにある。日本政府が為替レートに介入したのも目に見えない日米の密かなせめぎ合いがあるからだ。その為、日本はずっと東アジア地域の通貨ができることを望んでいる。まずはアジア通貨基金という構想があり、そして東アジアの金融協力を積極的に行なっていくという姿勢があった。しかしTPPへの加入は、日本の東アジア地域から頼りにされていると言う立場を弱めてしまう可能性がある。
前原誠司外相がTPPの加入に肯定的なのは、アメリカのアジア太平洋戦略における調整を日本が受け入れると言う外交上の意思表示である。一方、大畠章宏経済産業大臣が慎重な姿勢を見せているのは、日本の国内経済はまだTPPに加入するだけの準備ができていないと考えているからだ。
「中国網日本語版(チャイナネット)」 2010年11月10日