百年以上の歴史を誇る京都大学は、卒業生からノーベル賞受賞者が7人も誕生した大学としても知られている。ここには、いま、中国本土からの留学生600人を含め、1500人の世界各国の学生が勉学している。
京都大学の留学生募集で筆者の印象に残ったシーンは、数年前、北京で開かれた留学説明会で、カラフルな資料を数種類も平積みにし、3~4人体制で対応するブースに挟まれ、京都大学のブースはたった一人の職員で陣取っていた。配布資料も、ホッチキスで閉じたコピー資料1種類のみだった。しかし、殺到した学生の行列はどこの大学にも負けていなかった。
ただ、こうした京都大学の留学生受け入れの対応を心配な目で眺めている人たちもいる。
「ここ数年、どこの大学も中国人留学生を増やしているのに、京大の中国人留学生は600人程度にとどまり、一昔前より減少傾向にさえあります」
先日、北京在住の京大卒業生(中国人留学生を含む)による同窓会(「京京会」)では、じれったい気持ちを隠さないOBたちがいた。
一方、新しい動きも生まれつつある。これまでは卒業生の自発的な集まりとして開かれていた「京京会」に、最近、京都から大学の管理職が出向いて参加するようになっている。国際化に対応できる人材を育て、開かれた大学作りをする際の、隣国中国からの留学生募集の重要性が認識されつつあるようだ。また、漫画の形を使った中国語による京大の留学案内本もできた。
2005年の「国立大学」から「独立大学法人」への転換を背景に、京都大学は外部との連携を強めつつあり、そのための新体制が立ち上がった。さらに、今後3~5年かけて、留学生の数をいまの1500人から3000人に倍増させるという「グローバル30」プログラムも進めている。
こうしたことを背景に、中国からの留学生募集の位置づけは?そして、先端的な研究の実力を確保していく上での人材育成計画は? 先日、北京を訪れた京都大学の大西有三副学長(外部戦略を担当)にマイクを向けてみた。
■法人化を背景に 「開かれた大学作り」へ
――土木がご専攻の大西副総長が副学長に着任したのは、2008年のようですね。
はい。京都大学は、2008年、新総長の着任に伴って新しい体制がスタートし、私もその一員として、外部戦略を担当する今のポジションにつきました。
2005年、京都大学は、「国立大学」から「国立大学法人」に変わったのに伴って、国の力に頼らずに、自力で運営していかなければならなくなりました。これが新体制開始の背景です。
そのため、学生に魅力を感じてもらえる大学作りはもちろん、卒業生の力を大学運営にどう生かせばよいのかということも問われています。そういう外部戦略のスタッフを統括する立場にいるのが私です。
――北京で開かれる京大卒業生の同窓会に、今回は大学側としては、初めて参加されたようですね。
外部とのつながりを強めるには、様々な人の声を聞かなければいけません。北京に住んでいる方々が大学に対して、どういった意見を持っているのか、それを聞きに来ました。お陰様で、20人あまりのOBの方たちと席を囲むことができました。和気藹々としていて、様々な話が聞けて、たいへん楽しい時間を過ごせました。
――今後の大学運営に向け、中国にいるOBたちにどのような役割を発揮してほしいとお考えですか。
中国にいる卒業生はこれまで、大学側と緊密にコンタクトをとるチャンスがありませんでした。大学にとって、現地の情報、学生募集の際にどういう活動をしてアピールすればよいのかを把握できるようにしたいです。
今後、北京や中国だけでなく、全世界にグループを作って、現地との情報交換を緊密にし、それを次のステップの政策に生かしたいと考えています。
――日本の各大学はここ数年、北京や上海に相次いで事務所を開設していますが、こうした動きをどのようにご覧になっていますか。
そうですね。国立大学の独立法人化を機に、各大学とも外国とのつながりを見直しています。
京都大学はこれまで、中国の11の大学と協定を結んで、互いに授業料を不徴収にしています。学生や教員間の交流もずっとたゆまず行われており、特定の専門分野での提携も強めていく予定です。ただ、深圳や上海などでは、一部の学部のオフィスが設置されているものの、全学的な取り組みとしての事務所はまだ設置されていません。そのため、どうしても非常に断片的で、個々の先生の人間関係で維持されています。日中のどちらかの先生が退職したり、いなくなったりすると、交流が滞ってしまいます。
今後は大学間協定をきちんと結んで、教師も学生も交流することを強化していく考えでいます。これにプラスして、今、京都大学は世界の中でトップクラスを目指すために、優秀な学生に来ていただきたく、学生募集に非常に力を入れています。