この状況に教授は困り果て、決断を下せずにいる。当然研究は続けたいが、米国から資金援助を受ければ、これまで日本政府や企業の支援で得られた段階的な成果が外国人の手に渡ってしまう。そうはしたくないが、研究資金が得られないのであれば、米国で研究を続けるしかない。
資金問題に直面したのは安彦教授だけではなかった。東北大学大学院理学研究部の小谷元子教授も研究スタッフ5人をドイツの数学研究機関に派遣した。そうすれば、ドイツと研究成果を共有することになるが、ドイツ側が研究スタッフの旅費から生活費、給料まで支払ってくれる。こうした経費不足を前に、小谷教授はひとまずそうするしかなかった。
日本がこうした「人材の流失」や「大脳の流失」問題に頭を抱える中、他国は日本の人材や大脳を呼び込もうと必死だ。しかもこうした人材誘致は国家レベルにまで引き上げられている。オーストラリアのジュリア・ギラード首相は4月に日本を訪問した際、「震災支援はオープンでなければならない」と強調し、日本人の内向的な傾向を批判した。「社会のインフラ改革こそが本当の意味で貿易上の利益につながる」と述べ、市場開放、ルール緩和、人材・資本の自由な流動といった面でいっそう譲歩するよう日本に求めた。ダニエル・イノウエ米上院議員も東京で、日本人は伝統的な考え方を変え、人材の自由な流動に向けた条件を整えるべきだと促した。実際には米国など海外の研究機関で働く日本人は少なくない。現在のこうした論調は主に日本の研究者の段階的な成果を日本国外に持ち出し、彼らが共有しようとして、つくりあげた世論にすぎない。(鳳凰網評論コラム作家 俞天任氏)
「中国網日本語版(チャイナネット)」2011年6月9日