去るべきなのか
「もしここを見放して出て行ったら、すべてが終わってしまう」。白髪の松村さんは記者に言った。「ここを留まるのは私の責任だし、権利なのだ」。松村さんが去らないのは街への愛着からだ。彼の話では、事故が発生してから住民は散り散りになってしまった。「しばらく留まる人もいたんだ。みな私の家にいた。数週間前、最後の一人が去ってしまった」。残ったのはアンジーという名の小さな飼い犬だけだった。松村さんは、自分がガンに罹っているらしいと考えている。避難区域には、何人かの原発作業員も留まっている。多くが志願してのものだ。名前こそ知られていないが、当初の人数が50人だったため「フクシマ・フィフティーズ」と言われている。
彼ら作業員は白い防護服と酸素ボンベ、懐中電灯を身に着け、高濃度の放射能の中、原発内で作業している。原発事故の初期、彼らの耳に大きな爆発音が鳴り響いた。これは冷却水注入後に水素が放出され、化学反応が生じたためだ。
留まるべきなのか