「特別通行証」
松村の小型トラックは二人乗りだ。記者は助手席に座り、彼と共に警戒区域ラインを越えようとしていた。小雨が降るなか、車内の熱気が車窓を曇らせる。警戒区域ラインには、高さ約50センチのゲートがあり、警棒を持った武装警察が待ち構えている。松村は車を減速させ、ドアのウインドーを下げた。警察はフロントガラスに置かれた「緊急事態応急対策車両通行許可証」をチラリと見ると、車内を調べることもなく、先に行くことを許可した。
松村の通行証は、彼が政府と何度も交渉して勝ち取ったものだ。日本政府が20キロの警戒区域を指定したとき、すべての主要道路が閉鎖された。このとき松村は、山道を通って家に帰った。その後、山道も障害物でふさがれてしまい、松村は家に行く方法がなくなってしまった。「家はこの中にある。帰りたいんだ」。結局、政府は彼に「特別通行証」を発行することにした。
警戒ラインの前方には松村の家がある。彼の目にはゴーストタウンが広がっている。
「ゴーストタウン」