◆「発信力」が持つ対立打開へのヒント
本書のタイトルは『日中対立を超える「発信力」』とした。尖閣諸島(中国名・釣魚島)をめぐる領土問題や歴史認識に端を発した軋轢により、冒頭に引用した世論調査に見られるように、日中の国民感情は最悪の状況に陥っている。このような中で、報道の第一線で活躍するジャーナリストの「発信力」にこそ、日中の市民レベルでの相互理解、ひいては対立打開への多くの課題やヒントが隠されているのではないかとの思いが込められている。
実は、加藤さんの「編集後記」に端的に記されているように、本書に寄稿されたジャーナリスト各位はみな、近年顕著になった「日本メディアの中国報道への批判」に対する危機感を共有している。日本人の対中感情の悪化を招いた元凶は、日中関係の「悪い面ばかりを報じる」、「中国脅威論を煽っている」マスメディア自身ではないか、という漠然とした説を身近に見聞きしたことのある読者もおられるだろう。
本書は、このような批判に正面から向き合い、取材・報道現場での迷いも率直に記しながら、それぞれの記者・ジャーナリスト自身の信念や、今後の報道における課題を提示したものである。本書で二十一人が導き出した答えは多岐にわたるが、そこにこそ、ジャーナリストの「発信力」が持つ豊かな可能性を読み取ることができる。
◆読者(視聴者)であり、発信者でもある